吉田ヨウヘイgroup『Smart Citizen』(P-VINE)

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 草原を突き抜ける風のようなフルート、揺りかごのようにスイングするサックス。幼き日に駆け回った田舎の野山を思い出す。ジャズ、ファンクのリズム、コード進行にやわらかなメロディーが乗る和風ポストロック。ダーティー・プロジェクターズからの影響を公言し、聴く者を包み込むように鳴らされるギターと心和ませる管楽器と女性コーラス。豊饒な音楽だ。


 「新世界」を夢見て、はるか地平を見渡すために背伸びする、少年のような吉田ヨウヘイの声も魅力的だ。多彩な楽器隊や工夫を凝らしたアレンジに耳を奪われがちだが、総体として表現しようとしていることは、唄の表情にこそ端的に表れている。青年期も半ばを過ぎて少年の頃を振り返り、失われた情景や大切だった人間関係を想う歌詞が中心だが、2曲目の「ブールヴァード」では運転中のトラブルに、5曲目「12番ホーム」では列車のトラブルに例えるといった風で、日常の情景描写に心象風景を託している。そして3曲目の「アワーミュージック」では、人は時期が来れば諦めなければいけないことがたくさんある。それが大人になることだと歌われる。しかしその時期がないこともあると彼らは続ける。決して諦められないこともある。それが彼らにとっての音楽であり、信条なのだろう。


 話はそれるが、子ども向けの名作は、実は大人も楽しめる深い何かを隠している。ジブリ映画『となりのトトロ』は冥界からの使者であるという解釈もできるし、『千と千尋の神隠し』は精神分析で言えば子どもの発達過程を表すと同時に社会の暗部のカリカチュア。吉田ヨウヘイgroupのアルバムも同じで、やさしい音色なのに突き刺すような響きも含まれる。子どもの頃の懐かしく淡い感動を思い出させるが、そのなかにはお化けを怖がるような気持ちも含まれている。アルバムを通して聴いていて、不意に背筋が凍る瞬間を何度か体験した。自ら手放した大切なものについて歌う8曲目「ロストハウス」は特にそうで、苦しいほど胸が締めつけられた。岡田拓郎(森は生きている)がペダル・スティールを、三船雅也(ROTH BART BARON)がバンジョーを弾くこの曲は本作の核心だろう。ネガティヴな気持ちも包み隠さず歌われるからこそあたたかい音色が生きる。そして最終曲「錯覚が続いている」では本作中、最も牧歌的なメロディーが鳴らされ、大久保淳也(森は生きている)のトランペットが厳かに旅の始まりを告げるようだ



森豊和

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