Caro kissa『Door』(Positive Records)

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 1990年代に流行った "渋谷系" といえば、フリッパーズ・ギターやピチカート・ファイヴが代表的存在とされ、自ら「全員平成生まれの遅れてきた渋谷系宅録ユニット」と称しているOK?NO!!、それからOK?NO!!のメンバーであるreddam(リダム)など、いまでも多くのフォロワーを生み出しているムーヴメントだ。とはいえ、いまでも明確な定義はなく、"渋谷系" と呼ばれていた音楽に通じる匂いがあれば "渋谷系っぽい" と言われているのが、現状だと思う。強いて "渋谷系" に欠かせない側面を言うと、多様な音楽的背景が感じられること、くらいだろうか。


 そういった意味では、sunachu(すなちゅ)とtakahiro(たかひろ)による男女ユニットCaro Kissa(カーロキッサ)のアルバム『Door』も、 "渋谷系っぽい" と言えるかもしれない。本作は、親しみやすいメロディーと平易な言葉で紡がれた歌詞を特色とし、モータウン、ファンク、ブルースの匂いを醸す多様な音楽性が魅力だ。


 加えて、ニューミュージックの色がまだ濃かった1990年代初頭あたりのJ-POP、いわば普遍的なポップスを感じさせるのも本作の面白さである。いま "J-POP" と呼ばれている音楽のほとんどは、複雑なアレンジや忙しない転調が繰り返される過剰なプロダクションを特徴としている。だが、本作のJ-POP感は、そうした現在の "J-POP" に対するオルタナティヴ性を孕むものだ。例えが悪いのを承知で言えば、ブックオフの280円コーナーでよく見かける、1998年をピークとするCDバブル期に制作された作品のような音。念のために言っておくと、筆者はこの例えをポジティヴな意味合いで使っている。値段と内容がイーブンではないのは言うまでもなく、しかもCD不況と言われる前に作られた作品だけあって、売れた売れないに関わらずそれなりの制作費を元手に作られており、ゆえに音が良かったりするのだから。もっと言えば、レア・グルーヴというものがあるように、リリース当時は見向きもされなかった作品が、時を経て多くの人たちに聴かれている光景は文字通り "希望" と言えるはず。筆者は本作に、そうした時代の面白さも見いだしている。


 もしかすると、本作を聴いて "懐かしい" と思う聴き手はいるかもしれないし、あるいは、"これなら過去に聴いたことがある" と一刀両断する者もいるだろう。しかし、秀逸なメロディーと言葉でもって、"かつてのJ-POP" を2010年代に蘇らせた『Door』が、なぜ "今" 生まれたのか? このことについてはいろいろ想像ができるはずだ。そういえば、"渋谷系" が出てきた当時、同時期に流行っていた "ビート・ロック" なる縦ノリの音楽があって、"渋谷系" にはそうした時代の潮流に対する反骨精神があった。この状況、現在にも当てはまりません? 


 というわけで、あとはあなた自身の耳で確かめてください。



(近藤真弥)




【編集部注】『Door』は《Positive Records》のバンドキャンプからダウンロードできます。

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