VARIOUS ARTISTS「Light Wave '14 (Vol​.​1)」(ano(t)raks)

|
Various Artists Review.jpg

 《ano(t)raks》によるコンピレーション『Subterraneans V.A.』のレヴューでも書いたけれど、いま日本のインディー・ミュージック・シーンでシティー・ポップと呼ばれている音楽と、1980年代に流行したシティー・ポップは厳密に言えば違う。1980年代のシティー・ポップが "きらびやかな都会" に対するイメージを憧憬的に鳴らしたとすれば、いまシティー・ポップと呼ばれる音楽のほとんどは、その憧憬とは距離を置いている。むしろいまシティー・ポップと形容されがちな音楽の多くは、都会のイメージとは遠い、もっと身近で日常に寄り添う音楽なのではないか。


 もちろん言葉は生き物であるし、音楽だけに話を絞っても、テクノ、エレクトロ、パンクなどなど、生まれた頃とは比べ物にならないほどさまざまな解釈があてがわれ、多彩な含意を持つようになったジャンルはいくらでもある。これらのジャンルについて音楽リスナーに訊いてみたところで、訊いた数だけの解釈が返ってくるのは目に見えている。おそらくシティー・ポップも、そのうちのひとつになりつつあるのではないか? 筆者はここ最近そう考えるようになった。それでもシティー・ポップで括るのは無理が生じるから、"ポスト・シティー・ポップ" なんて言葉を原稿で使ってみたりもしたのだが、ここに来て《ano(t)raks》が興味深いコンピレーションを発表してきた。それが「Light Wave '14 (Vol​.​1)」である。


 本作に参加しているのは、へそのすけ、辻林美穂、Sodapop(ソーダポップ)、北園みなみ、Shin Rizumu(シン・リズム)の計5組。レーベルのバンドキャンプに書かれている概要には、「10年代現行インディ・アーチスト達による、リアル・メロウ・ポップス集。」とある。なるほど、「リアル・メロウ・ポップス」ときた。確かに、本作の曲群は日常にある風景を切りとった言葉で彩られたポップ・ソングであり、どこか静穏な雰囲気を醸し出している。もちろん、アーティストごとの個性が生きているという意味で曲によって違いはあるが、どこか繋がっているような印象も抱かせるのだ。各曲で歌われている風景はそれぞれ違う場所にあるかもしれないが、目の前の日常であるという点においては、相互作用しているのではと想像させる。


 さらに全曲メロディーが本当に親しみやすく、ファンクやディスコの要素も通底する。これは偶然にも、ダフト・パンク『Random Access Memories』が世界中でヒットした現在と共振するが、筆者は本作のタイトルにある"Wave"から、セイント・ペプシといったディスコ色が強いヴェイパーウェイヴ(Vaporwave)を想起した。少なくともニュー・ウェイヴ(New Wave)やチルウェイヴ(Chillwave)よりはしっくりくる。


 また、本作のジャケットもそんな想起を助長する。可愛らしい女性が車のドアにかかり、レコードやCDについてくる帯もある。そしてよくよく見ると、"見本盤" とまで書かれている。筆者がこうしたデザインを見かけるようになったのは、《Ninja Tune》傘下の《Technicolour》などからリリース経験もあるキッドAが、2011年に『PPPoney OST』をデジタル・オンリーで発表したあたりから。その後はイギリスの《Phantasma Disques》、ロシアの《Black Havana》‎といったウィッチハウス系のレーベル、いわゆるインターネット・ミュージック周辺で見ることが多かった。ゆえに筆者は、本作の "Wave" からヴェイパーウェイヴを連想したのだ。もっといえば、ヴェイパーウェイヴも本作も "10年代" である。これはもしかして、本作に込められた裏テーマのひとつでは? と思ったり。


 当然、これが邪推である可能性も否定できない。だがそうやっていろいろ考えさせるのも、本作の目的なのかもしれない。それこそ、ほとんどの者がジャケット・デザインや歌詞カードを繰り返し見ながら音楽を聴いていた、かつてのように。本作は現在のテクノロジーを使って、過去の残滓を鮮明に蘇らせる。



(近藤真弥)




【編集部注】「Light Wave '14 (Vol​.​1)」は《ano(t)raks》のバンドキャンプ、およびタンブラーからダウンロードできます。

retweet