THE WAR ON DRUGS『Lost In The Dream』(Secretly Canadian / Hostess)

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 80年代にU2が掲げた壮大なセンチメンタリズム。アダム・グランデュシエル率いるフィラデルフィアのロック・バンド、ザ・ウォー・オン・ドラッグスのレコードを聴いて、私は「まだこの世界に希望を持ってもいい」と感じた。核の恐怖に晒された現代社会において、それは馬鹿げた夢想かもしれない。けれどロックンロールはいつだってそういうものだったはず。彼らはインディー・ロックの精神性を保ちながら、メッセージ性を持ったスタジアム・ロックを目指す。


 ブルース・スプリングスティーンやトム・ペティ、ダイアー・ストレイツ等を引き合いに出されるように、カントリーからニュー・ウェイヴまで広く影響を感じさせる一方で、リアル・エステートのような2000年代以降のインディー・ロック・アクトが奏でる繊細なタッチのギター・サウンドも聴くことができる。はかなく揺れるようにきらめく幻想的なギター、あるいはピアノのメロディーなどを軸に、ドラムや様々な楽器をかぶせ、立体的なサウンドを構築していく。随所にさりげなく差し込まれるサックスやハーモニカも映える。ボブ・ディランに似たヴォーカルはつぶやくように、時には吐き捨てるように、ここぞという瞬間にはストレートな激情を帯びる。その力強さから私は幼き日に見た父親の姿を思い出した。たくましい腕につかまり肩に乗れば、遥か遠くの山々へ続く道のりが見渡せる。1曲目「Under The Pressure」や4曲目「An Ocean In Between The Waves」で響く、クラウトロックからの影響を感じさせる反復的なビートは、困難な道のりを連想させ、7曲目「The Haunting Idle」から8曲目「Burning」へつながる流れに顕著な、シューゲイザー的な音像は、山々にかかる霧を思わせる。


 ガーディアンによると、高い評価を受けた前作『Slave Ambient』にともなう長いツアーの後、故郷に帰ったアダムは浦島太郎になった。恋人は去り、地元の仲間も失い、途方にくれた彼は抑うつ状態に陥ったという。本作には、そこから回復する途上の心情が反映されているのだ。10年以上に渡る音楽キャリアを経て、そのとき彼は真の意味で大人にならなければならなかった。つまり本作で聴ける幽玄なサウンドスケープは彼の経験したメランコリーを表し、力強いシャウトとメロディーは現在の彼が身につけた父性を象徴する。本作を『Lost In The Dream』と銘打ったのは、夢の中にまどろむためではない。厳しい現実を見つめ、夢の途上で失われた希望をもう一度取り戻すためだ。



(森豊和)

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