私の思い出『アドベンチャー!危機一髪!』(思い出レコード)

私の思い出.jpg

 無性にご飯を食べたくなるファンク・チューン「お米フリーク」にまず度肝を抜かれた。この曲はシックの「Le Freak(邦題「おしゃれフリーク」)」のオマージュなのだろうが、パンク版のシックというコンセプトはまんまオレンジ・ジュースとかぶる。ヴォーカル、ギター、ベース、ドラム、サックスによる京都の5人組ロック・バンド私の思い出は、オレンジ・ジュース同様、過去の様々な音楽からの影響を自在に取り入れている。


 私の思い出、これがバンド名。東京インディー・シーンで言えば、森は生きているや失敗しない生き方のほうが、まだバンド名らしく聞こえる。内省的でユーモアと哀愁漂う歌詞でファンクをやるという点ではトリプルファイヤーと同種かもしれない。しかし今挙げた3組と彼らが決定的に違うのは、京都という土地柄だろうか、現在の流行を意識した点があまり感じられないことだ。すると一番遠いようで近いのはミツメかもしれない。彼らの日々の生活のリアリティーを曲に落とし込み、サイケデリック・ファンクとして結実させている。


 4曲目、最高にセクシーなヒップホップ・チューン「Don't Stop BBQ」までは、彼らがあたかもバラ色の青春の日々にいるかのようなリリックが続く。しかし、この曲の後半でメンバーの家族らしき女性(母や姉? あるいは妻だろうか)の小言が挿入され始め、不穏な空気を醸し出す。「Don't Stop やめないで」という叫びがこれほど切実に聴こえる瞬間はない。だが、抵抗むなしく音楽はフェイド・アウトし、禁煙の辛さを叫ぶジミ・ヘンドリックスばりのサイケデリック・ギター・チューン「禁煙」から、風景は一変する。まるでオアシスの「Don't Look Back in Anger」のようなバラード「悲しいよ」。行けなかったキャンプで作るカレーについての妄想を歌う「俺のガラムマサラ」と続く。その業の深さ、怨念の密度といったら! そして60年代以前のアメリカ映画の主題歌、というかそれにインスパイアされた昭和歌謡を彷彿させる「荒野のネッカチーフ」を経て、ゲスト・ミュージシャンのピアノ演奏をバックにジャズ・シンガーさながらに歌い上げる「腰が痛い」で、彼らの日常は幕を下ろす。


 彼らはロックだけでなく、R&B、ファンク、ジャズ、ヒップホップからの様々な影響を昇華している。その一方で一聴するとふざけて聴こえる歌詞を乗せて、自分たちが必死に生きていることを皆に悟られまいとする。「ロックなんてたいしたものじゃない、皆が楽しんでくれたらそれでいい」。そんなメッセージすら感じる。だから彼らの演奏は胸を打つし、私はまたラジカセの再生ボタンを押す。



(森豊和)


retweet

トラックバック(0)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: 私の思い出『アドベンチャー!危機一髪!』(思い出レコード)

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://cookiescene.jp/mt/mt-tb.cgi/3907