FRANCIS HARRIS『Minutes Of Sleep』(Scissor And Thread)

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Francis Harris『Minutes Of Sleep』.jpg

 《We go dancing in electric lights and beats, fantasies Till the morning, till the morning Breaks the night》


 これは、フランシス・ハリスのセカンド・アルバム『Minutes Of Sleep』のハイライト、「You Can Always Leave」で歌われる一節。簡単に意訳すると、《きらびやかな光とビート さあ、幻想の中へ飛び込み踊ろう 朝になるまで 夜が明けるまで》といった感じだろうか。このフレーズを女性ヴォーカリストのグライは物悲しく歌ってみせる。その歌声が想起させるのは、パーティーの終わりが近づいたときに生じる、踊り明かした高揚感と寂しさが入り混じったあの空気。そうしたロマンティックな瞬間が「You Can Always Leave」には刻まれている。


 この曲のためだけに本作を手に取るのもアリだが、もちろんアルバム全体としても興味深い内容だ。冒頭を飾る「Hems」「Dangerdream」は、緊張感を醸すトランペットとチェロの響きが耳に残る曲で、共に不穏な雰囲気漂うドローンを展開している。このように本作はディープな領域を起伏のスタート地点にしており、体を揺らしてくれるハウス・ビートが聞こえてくるのは4曲目「Lean Back」から。以降は「Me To Drift」や「What She Had 」を筆頭に、ストイックなハウス・トラックが続く。それでも「Blues News」ではふたたびドローンが顔を覗かせるなど、アルバム後半でもハリスは勢いに身をまかせず、抑制的な繊細さで聴き手を本作の音世界に導いていく。このあたりは、ハリスの高いインテリジェンスと巧みなプロダクション技術を窺わせる。また、随所でジャズの要素が見られること、さらにいくつかのハウス・トラックはメロディアスな側面もあることを特筆しておきたい。特にメロディアスな側面は、本作を甘美かつエモーショナルな作品とするうえで非常に重要な要素となっている。


 それにしても、圧迫的なインダストリアル・サウンドがフロアを席巻するなか、現実逃避的なハウス・アルバムである本作はどう聴かれるのだろう? パーク『The Power And The Glory』のような、あからさまに "レベル(Rebel)" なダンス・ミュージックも現れはじめている。そんな状況において『Minutes Of Sleep』は、現実から背を向けたナイーヴな作品とも解釈できる。ゆえにリアリティーを見いだせず、深くコミットできない者もいるはずだ。そういった意味で本作は、あなたが音楽に求めるものを気づかせてくれる作品だと言える。



(近藤真弥)

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