COPELAND『Because I'm Worth It』(Self Released)

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 インガ・コープランドことアリーナ・アストロヴァが、ソロ・デビュー・アルバム『Because I'm Worth It』をコープランド名義で発表した。このタイトルを日本語に意訳すると、『私には(それなりの)価値がある』といった感じ。捉え方にもよるが、筆者からすると、背水の陣であっても前向きに行こうと歩きだす彼女の姿が見えてくるタイトルだ。


 2013年夏、ディーン・ブラントと共に結成したハイプ・ウィリアムスの正式なコンビ解消が伝えられ、その後ディーン・ブラントは《Rough Trade》と契約。コープランドもコープランドで音源の制作を続け、いまは別々に活動しているそうだ。こうした背景をふまえると本作は、ディーン・ブラントに対する当てつけのように解釈できなくもない。「Insult 2 Injury(侮辱されて傷ついた)」や、アクトレスとコラボレーションした「Advice To Young Girls(若い女性たちに送る助言)」といった曲名は、そう考えるのに十分な説得力を持つものだ。もうひとつ興味深いのは、本作のプレス・リリースに記された次のような言葉。


 "spill a tear and then you cry for ldn is it the kinda place you'd die for? how does it feel to be lied to? but then again what's a girl to do?"


 これは7曲目「Inga(インガ)」(このタイトルはインガ・コープランド自身を指すと思われる)の歌詞から引用した一節で、このことも本作が内省的でパーソナルな作品であることを窺わせる。言ってみれば本作には、アリーナ・アストロヴァという女性の内観が記録されているのだ。


 これまでに彼女は、実験的かつディープなエレクトロニック・サウンドを展開し私たちを魅了してきたが、本作でもその姿勢は相変わらず。スティーヴ・ライヒやフィリップ・グラスといったミニマル・ミュージックの要素が漂うサウンドスケープは荘厳な抑制美を生み、不意に鳴らされる強烈なベースには聴き手を驚かせようとする彼女の遊び心が込められている。「Advice To Young Girls」では地鳴りのような低音を響かせ、さらに「Inga」はダビーな音使いを際立たせたりと、ベース・ミュージック好きに受け入れられそうなプロダクションが目立つのも特徴だ。お世辞にも最先端のサウンドとはいえないが、変に肩肘張ったような雰囲気は見られず、自身の求める音を自由に鳴らしている。


 本作にはディーン・ブラント&インガ・コープランド『Black Is Beautiful』、それから「Don't Look Back, That's Not Where You're Going」といったインガ・コープランド名義の作品で見られた、ナンセンスの極みに到達した皮肉があるわけではない。だが、ソロとしての第一歩という意味では文字通り良作、 作品のクオリティーを確保しつつ "これから" も期待させてくれる内容である。そして何より、陶酔的で美しい。


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