CONI「Comfort Zone」(ClekClekBoom)

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 ここ10年のフランスのダンス・ミュージック・シーンを語るうえで欠かせないレーベルといえば、やはり《Ed Banger》になるだろう。2003年に始動したこのレーベルは、これまでにジャスティスやセバスチャンといった、いわゆるフレンチ・エレクトロの中心人物を輩出してきた。他にもペット・ショップ・ボーイズ、DJメディ、ローラン・ガルニエなど、そうそうたる顔ぶれがカタログに並んでいる。先日《LuckyMe》から「Wedding Bells」という良質なEPを出したカシミア・キャットを逸早くピックアップしたりと、鋭い嗅覚も健在だ。《Ed Banger》は、文字通り名門レーベルとしてその存在感を放ってきた。


 とはいえ、もはや《Ed Banger》ばかりに注目していられないほど、現在のフランスからはさまざまなダンス・ミュージックが生まれている。その盛り上がりは世界中のリスナーに届いているようで、イギリスのDJ/クラブ雑誌DJ MAGは、1950年代末にフランスで起こった映画のムーヴメントをまんま引用したフレーズ、「FRENCH NEW WAVE !」を掲げたりもしている(おまけに「VIVE LA FRANCE !」なんて言葉も)。


 そのなかでも、特に面白いのが《Bromance》と《ClekClekBoom》というレーベル。前者がジャスティス以降のフレンチ・エレクトロなサウンドを影響源として色濃く表すのに対し、後者はグライムやダブステップといったベース・ミュージックの要素が際立っている。ゆえに《ClekClekBoom》はイギリス的というか、フランスの匂いがあまりしない。それでいて、ただイギリスの流行りを追いかけるだけで終わらないサウンドも確立している。こうした方向性に至ったのは、急速に盛り上がったあと瞬く間に勢いが落ちてしまったフレンチ・エレクトロの諸行無常を見てきたせいかは定かではないが、少なくともパリにアンダーグラウンドな音楽シーンを作ることに腐心しているのだけは確かだ。それは2013年にリリースしたレーベル・コンピのタイトルが『Paris Club Music Volume 1』だったことからも窺える。《ClekClekBoom》は、フレンチ・ハウスでもフレンチ・エレクトロでもない、新たな音楽と文脈をパリに築きあげるという難題に挑んでいるのだ。


 そんな《ClekClekBoom》のアーティストで筆者が熱心に追いかけているのは、コニことニコラス・オリエ。ニコラスは2011年の「Luz In Pool / Suma / Crush」で甘美なUKガラージの要素を漂わせ、さらに「My Secret Diving E.P.」では妖艶なハウスを鳴らすなど、ベース・ミュージック中心の《ClekClekBoom》にあってハウス/テクノ寄りのサウンドを売りにしている。その音楽性は《L.I.E.S.》周辺のミニマルなロウ・ハウスに通じるものだが、それはあくまで一要素に過ぎなかった。


 しかし本作「Comfort Zone」においてニコラスは、これまでよりもディープでダークなサウンドスケープに到達してしまった。シカゴ・ハウス、インダストリアル、ベース・ミュージックが交雑するサウンドはラフな質感を携え、音数を少なくすることでドラッギーな陶酔感も獲得している。ここまでくると、《Minimal Wave》が偏執的にリイシューしつづけるチープでヒンヤリとしたポスト・パンク作品に近いものを感じてしまう。それほどまでに本作の電子音とビートには、現在と過去の間を彷徨うゴーストのような雰囲気がまとわりついている。正直、《ClekClekBoom》主宰のフレンチ・フライズやミニストルXよりもブっ飛んだ音で、面白い。


 それにしても、「Comfort Zone」をマスタリングしたスチュアート・ホークスはどんな気持ちだったのだろう。スチュアートはケイティ・Bやリリー・アレンの作品にも関わっている売れっ子エンジニアだが、本作をマスタリングする際に聴いたときはさすがに驚いたんじゃないかなって。まあ、余計なお世話かもしれませんが。



(近藤真弥)

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