BERNARD + EDITH「Poppy」(Sways)

|
Bernard + Edith「Poppy」.jpg

 いま、イギリスのマンチェスターは闇に包まれている、というのは言い過ぎにしても、ダークなサウンドを数多く生み出しているのは間違いない。ザ・1975のように、スタジアムが似合うメロディアスな曲を武器にするロック・バンドもいるにはいる。しかし、昨今のインダストリアル・ブームを牽引し、いまやテクノ界隈に留まらない知名度を得た《Modern Love》、さらにセカンド・サマー・オブ・ラヴの影響下にありながら、『A Fallen Empire』という強迫的なドローン・サウンドを打ち出したアルバムで音楽シーンに躍り出たサミュエル・ケーリッジなど、お世辞にも明るいとは言えない音を鳴らすレーベルやアーティストが目立っているのは、紛れもない事実だろう。やはりジョイ・ディヴィジョンという、氷柱よりも冷たく鋭い音が特徴のバンドを輩出した土地柄なのか。あるいは、パーク『The Power And The Glory』と同じく、良いとは言えないイギリスの状況を反映しているのか。


 どちらにしろ、マンチェスターのサウンドはどこかメランコリックで、闇をちらつかせるものが多い。たとえ、どんなにアッパーで躁的なサウンドでも(それはハッピー・マンデイズを聴けばわかるはずだ!)。かつて、狂喜の宴を連日連夜繰り広げていたクラブ《Haçienda》にしても、ジョイ・ディヴィジョン『Unknown Pleasures』のマスター・テープ・コピーに支えられていたのだ(※1)。言ってしまえば、マンチェスター・サウンドの本質は "陽" より "陰" なのかもしれない。「Death Dance」なんて曲を発表し、サックスをフリーキーに鳴らすダークなポスト・パンク・サウンドが特徴のネイキッド(オン・ドラッグス)みたいな若手バンドも出てくるのだから・・・。


 そんな筆者の徒然とした考えは、本作「Poppy」が3枚目のEPとなるバナード+エディスによってある程度ハッキリした。マンチェスター出身のバナード+エディスは、グレタ・エディス・キャロルとニック・バーナード・デラップによる2人組ユニット。妖艶な歌声を持つエディスがヴォーカル、そしてエジプシャン・ヒップホップのメンバーでもあるバーナードがサウンド面を担っている。一昨年解散したウー・ライフのライヴ会場で邂逅し、地元のクラブ《Soup Kitchen》などでライヴ活動に勤しんでいるあたりは、マンチェスターも狭いというか、豊穣な音楽シーンとコミュニティーは健在なんだなと思ったりもする。


 とはいえ、ヒップホップの要素が強いビートに、耽美的なサウンドスケープが交わることで妖しい雰囲気を作り上げていくバナード+エディスの音楽自体は、ポーティスヘッドや初期のトリッキーといった、いわゆるブリストル・サウンドに通じる。また、神秘的な空気をまとったポップ・ソングである表題曲はインドのラーガを連想させるもので、こうした折衷性も興味深い。


 そのオリエンタルな要素はMVでも見られるが、それが結果的に、ウィッチハウスや日本の§§(サス)と類似するヴィジュアルに繋がっているのも面白い。もはや使い古された言いまわしだが、ネット以降の世界は狭くなった、ということなのかもしれない。



(近藤真弥)




※1 : ピーター・フック著『ハシエンダ~マンチェスター・ムーヴメントの裏側』によると、《Haçienda》のステージ下の奥は酒樽置き場となっていて、その酒樽は厚い板の上に置かれていた。そして、その板を乗せる台に使われていたのが1/4インチのオープンリール・テープ・ボックスで、それこそがジョイ・ディヴィジョン『Unknown Pleasures』のマスター・テープ・コピーのひとつだったそう。ちなみにピーターは、そのことを次のように表現している。


「完璧なメタファーじゃないか。ジョイ・ディヴィジョンが、いつ崩れさってもおかしくなかった、あの素晴らしい、くそみたいな日々を支えていたんだ。」(ピーター・フック著『ハシエンダ~マンチェスター・ムーヴメントの裏側』429頁より引用)

retweet