UNTOLD『Black Light Spiral』(Hemlock)

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 《Hessle Audio》や《R&S》から良質なダブステップをリリースしながら、《Hemlock》というレーベルの主宰者としてジェームズ・ブレイク、コスミンTRG、そして今ではパーソン・サウンドの名で知られるラマダンマンのシングルをリリースするなど、ベース・ミュージック・シーンで着実にキャリアを積み重ねてきたアントールド。


 そんな彼が待望のファースト・アルバム『Black Light Spiral』を発表したのだが、聴き手の想像力をくすぐる面白い作品だ。まず、ピギー・バンクに重石が落下した瞬間をとらえたジャケット。アントールドが生まれたイギリスでは、台所に豚の貯金箱を置き、そこに余ったコインを入れる習慣が根強く残っている。そうしたこともあり、筆者は本作のジャケットを見て、これはアントールドなりの反骨精神を表したのか? と思ったりもした。言ってみれば、ダブステップが最新鋭だったのはとうの昔となり、刺激に乏しい定型的なベース・ミュージックが量産されるようになった現在に対する批判精神。それこそ、「音楽よ、安らかに眠れ」と題された短い詩を公開し、最新作『Ghettoville』で新たなサウンドを偏執的に追求したアクトレスと類似する姿勢・・・。


 と、ここまでは筆者の邪推に過ぎないが、本作がそう思わせるような作品であることは間違いない。低域を強調したベース・ミュージックでありながら、そのサウンド・プロダクションはとても粗く、ビートもゴツゴツとしたラフな質感が際立っている。筆者にしてみれば、それはブラワン「Why They Hide Their Bodies Under My Garage」を一瞬思い浮かばせるものだが、本作はもっとダークでドロドロした雰囲気を醸し出す。もしかすると、近年の《Modern Love》みたいなインダストリアル・サウンドを想起する者もいるだろうか。少なくとも、本作でのアントールドが新しい音を鳴らすことに執着しているのは確かだ。ベース・ミュージックやインダストリアルはもちろんのこと、ノイズ、ドローンといった音楽の文脈でも解釈可能な作風からもそれは窺える。


 本作はけたたましいサイレンが鳴り響く「5 Wheels」で幕を開け、その後は地を這うようなグルーヴが終始うねりつづける。ゆえに強烈な酩酊感を宿し、ぶっ飛んだら2度と目覚めないのでは? と思えるほどにダウナーな恍惚感をもたらしてくれる。こうしたトリッピーな側面に触れると、やはり本作はダンス・ミュージック・アルバムであると実感する。体を激しく踊らせるのではなく、心を躍らせるという意味で。


 おそらく本作は、これまでのベース・ミュージック・シーンにはあまり見られなかったサウンドとして享受されるだろう。hanali(ハナリ)といったアーティストを中心に確立された、ゴルジェという音楽をすでに通過している者たちを除いて。



(近藤真弥)

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