TODD TERJE『It's Album Time』(Olsen / Beat)

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 ノルウェー出身のDJ/プロデューサーであるトッド・テリエが、上品なディスコ・トラック「Eurodans」を《Soul Jazz》からリリースしたのは、実に10年近くも前のこと。当時高校生だった筆者は、パーカッシヴで中毒性の高い反復リズムを駆使した「Eurodans」に文字通り魅了された。おかげで頻繁にクラブへ、というのは未成年だったゆえに叶わなかったが、そのかわり、自宅のターンテーブルに乗せてヘヴィー・プレイをしていた。


 テリエが作るディスコ・トラックには、腰を振らせる肉体性と同時に、聴き手をふわふわとした心地良さに導くトランシーな恍惚感もある。そんな彼のサウンドは "コズミック・ディスコ" と形容されることも多く、リンドストローム、プリンス・トーマスといったアーティストと一緒に語られることがしばしば。特にリンドストロームとは深い交流があるようで、2013年にはテリエが主宰する《Olsen》から、「Lanzarote」という共作シングルを発表している。このシングルは一言で表すと、お水で享楽的なダンス・ミュージック。世界中の都市名を連呼するだけの歌詞と、イタロ・ディスコのいなたい雰囲気が聴き手を笑わせてくれる。フロア仕様のディスコとして申し分ないクオリティーも備え、多くのDJたちによってスピンされた。こうしたインテリジェンスを感じさせる遊び心もテリエの持ち味のひとつだ。


 本作『It's Album Time』は、その遊び心がこれまでよりも鮮明に表れた作品である。シングル、EP、それから数多くのリエディットやリミックスにおけるテリエは、"フロア" を必ず意識していた。しかし、本作でのテリエはそうした意識を抑えている。全体の流れは明確に練られ、シングル中心に活動する者がアルバムを作る際に陥りがちな "寄せ集め感" の罠にハマっていない。全曲がひとつの壮大な物語を描くためのパーツとして存在し、そういった意味では捨て曲なしと言っていい。「Intro (It's Album Time)」で幕を開けてから最後の「Inspector Norse」まで、だれる場面が一切ない。ロバート・パーマー「Johnny And Mary」のカヴァーでブライアン・フェリーをヴォーカルに迎えるという面白い試みも、『It's Album Time』の世界観に上手く馴染んでいる。


 もちろんダンス・ミュージックの機能性も健在だが、本作でもっとも際立っているのは、ホーム・リスニングも可能なメロディー・センスと多様な曲群だろう。こうした側面は、テリエが豊富な引き出しを持つメロディー・メイカーの才に恵まれていることを堂々と証明している。



(近藤真弥)

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