nhhmbase「水辺の鼓」(rpmd)

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 nhhmbase(ネハンベース)のシングル「水辺の鼓」をiPodに入れて、繰り返し聴いている。昼間の雑踏の中を歩きながら、夜更けの列車に揺られながら。2分にも満たない2つの歌と3分ちょっとのインストゥルメンタルがひとつ。それぞれが独自の表情を持ちながらも、まるでひとつの曲のように響く。


 幾何学的なアートワークと呼応する変則的なビート。幾層にも折り重なるギター・リフとそのレイヤーの狭間を自在に動きまわるベース・ライン。そして、素っ頓狂にも真摯にも聴こえる歌声。"ポスト・ロック" だとか "音響派" だとか形容されることも多いそのサウンドは、確かに緻密に計算されているのかもしれない。けれども、人懐っこくて、どこか儚げなメロディーが耳に馴染むとき、そのイメージは一変する。数学的というよりも文学的。しっかり構築された音像だけれど、どこまでもエモーショナル。目の前に横たわる色のない雑踏や列車の窓から見える街の明かりが消え去って、遠い記憶が呼び覚まされるようだ。


 タイトル・トラック「水辺の鼓」では、こぼれ落ちるしずくを思わせるギター・リフとたった10行の歌詞で、無常な、そして残酷なほどに無垢な世界が描かれる。どこかにぽつんとひとり取り残されるような不安と、ひとりぼっちだからこそ得られる自由。そんな思いは、ポップなメロディーと一筋縄では行かないリズム・パターンが印象的な「ノスタルショートカット」で、さらにかき立てられる。2ndアルバム『3 1/2』に収録されていた「廃る(Single Mix)」の透き間だらけの混沌で、このシングルは締めくくられる。そして僕はもう一度、PLAYボタンを押す。


 例えば、ルーツにノイズ、ハードコアを持ちながらミニマムな実験性を発揮し続けたガスター・デル・ソル。彼らが最後に辿り着いた『カモフルーア』の無邪気な遊び心が2011年を経た、今の日本で鳴らされているみたいだなと思う。もしもフィッシュマンズが現在でも活動を続けていたら、どうなっていたかな? という妄想も楽しい。サウンドの感触は違うけれども、ビートと言葉への繊細な感性はnhhmbaseと共通するような気がする。つまり、もう"ポスト・ロック"だとか"実験性"って言葉が面倒くさくなるくらい、サウンドの冒険を恐れていないってこと。間口がグンと開かれた(良い意味での)ポップさを持ち合わせながら。


 そして特筆すべきなのは、やっぱり常軌を逸した(!)特典CDについて。この3曲入りシングルは税抜きで1,000円。それは普通。でも、特典として付いてくるのは、なんと1stアルバム『波紋クロス』のリニューアル・ヴァージョン丸ごと! オリジナルの『波紋クロス』が過酷な状況下でのレコーディングだったことや、その後すぐに「第一期」と呼ばれるメンバーが、メインのマモルを除いて全員脱退してしまったことはすでに周知のとおり。そんな「いわく付き」ともいえるアルバムが『2014』ヴァージョンに生まれ変わっている。


 自由なサウンド、無謀な価格設定とパッケージが素敵だ。あえて『波紋クロス 2014』のレヴューはしない。それは、手に入れたみんなが思い思いのイメージを描くべきだと思うから。初期からのファンは2枚を聴き比べるのも楽しいはず。初めてnhhmbaseを聴く人にとっては、きっと彼らの歩みを知る絶好の機会になる。消費税が8%に上がっても1,080円。それが日本の現状だし、それだけで今の日本から鳴らされるべき音楽を聴くことができる。




(犬飼一郎)

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