MORGAN DELT『Morgan Delt』(Trouble In Mind)

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 テンプルズとポーティスヘッドを足したようなサウンド、あるいは13thフロア・エレヴェーターズをもっと露骨にカヴァーしたプライマル・スクリームとでも言えば通りはいいか。サイケデリック、ハード・ロック、シューゲイザー、様々な要素が感じられる。


 名古屋大須の『矢場とん』ビルの前はいつも観光客による行列があるが、そのすぐ南、弁当屋の横の雑居ビル、その急な階段を登った4階に『FILE-UNDER』というレコード店がある。店主である山田岳彦の情報収集能力の高さは目や耳が三つ付いているのではと勘ぐらせる。マニアックな品揃え過ぎて、いつか店が潰れないか心配しているのだが、意外とそんなこともないようだ。「深夜に店に戻ったら幽霊が出たよ」とうそぶく彼が今、店で猛プッシュしているのが、異形の化け物を想起させるサイケデリア、カリフォルニア出身の宅録ミュージシャン、モーガン・デルトだ。


 ターン・テーブルに乗せると空気が変わる。スクラッチ音から始まり軽快に跳ねる1曲目「Make My Grey Brain Green」で、我々をフラワー・ムーヴメントの時代にトリップさせる。カルト教団を連想させるスロー・ナンバー「Barbarian Kings」を筆頭に、映像イメージの湧く曲が続く。後半の「Sad Sad Trip」と次曲「Backwards Bird Inc.」の重低音ファンク2曲は、プライマル・スクリームの『Screamadelica』に収録されていてもおかしくない。約2分でフェイド・アウトする最終曲「Main Title Sequence」は映画のエンディングを思わせる。実際に映画にインスパイアされて作曲していると彼はインタヴューで語っている


 60年代のサイケデリック・ロックは、ドラッグによる意識拡張と切れない関係にあった。ミュージシャンに全てを与え、ときに全てを奪い去ったドラッグ。10年代ではインターネットがそれに当たるかもしれない。どんな辺境の一室からも世界への発信が容易になった今、個性的な表現であればいずれ広がっていく。世界は自宅のデスクトップにある。個々人の精神が知覚し得る領域を押し広げる一方で、時には深刻な依存、そして中毒を引き起こすという点でも、ドラッグとインターネットは近い。


 60年代のミュージシャンには明快な仮想敵としてベトナム戦争があった。そしてドラッグ自体が身体を蝕む見えない敵。双方ともに地上の地獄だ。対して10年代のインターネット、とりわけSNSは便利なコミュニケーション・ツールだが、同時に実態のみえない圧力を絶えず受ける。誰かに認められる一方で、誰かに激しく非難される。地獄はパラノイアになる自分自身の奥底にある。商売柄、山田はインターネットを手放せない。海外への発注、問い合わせは勿論、新鋭レーベル、アーティストを探すこともほぼ全てネット経由だ。ロックDJでもある山田が行うレコード店業務は、モーガン・デルトが行う宅録作業と似ている。様々な音楽を聴き、自らの音(あるいは店の商品)としてアウトプットする。


 夜遅く、最後の客も他の住人も帰った後の雑居ビルで、山田は黙々と作業している。店内に並ぶ無数のレコードやCD、手作りジンには、製作者の生霊が宿っている。魔界は我々一人一人の内にあり、インターネットを通して繋がり拡大していく。モーガン・デルトは言う。「聴き手であるお前の中にこそ物語がある」。想像しろ。



(森豊和)

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