MILLIE & ANDREA『Drop The Vowels』(Modern Love)

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 2010年代に入ってから、"インダストリアル" という言葉が至るところで見られるようになったのは、多くの人にとって驚きだったかもしれない。例えば、2000年代半ばに起きたポスト・パンク・リヴァイヴァル。このときはジョイ・ディヴィジョン、ギャング・オブ・フォー、エコー・アンド・ザ・バニーメンといったバンドの名が誌面におどることはあっても、インダストリアル・サウンドを特徴とし、オリジナル・ポスト・パンク期における最重要バンドのひとつであるスロッビング・グリッスルの名を見かけることはまずなかった。彼らが主宰する《Industrial Records》周辺のアーティストやバンドについても同様。そもそも、"インダストリアル" という言葉自体が無視されていた。


 しかしどういうわけか、2~3年前から「インダストリアルな...」「盛り上がるインダストリアル・リヴァイヴァル...」「必聴のニュー・インダストリアル...」みたいなフレーズが、レコード・ショップのポップ、音楽誌のレヴュー、プレス資料などに現れはじめた。こうしたブームといえる状況は、発展を遂げながら今も続いている。


 そんなブームの中心にいるのが、マンチェスターを拠点に活動する《Modern Love》。初期の頃は一介のテクノ・レーベルに過ぎなかったが、ここ数年はアンディー・ストット『Luxury Problems』を筆頭に、インダストリアル再評価の震源地として強い存在感を放っていた。だがここにきて《Modern Love》は、インダストリアル再評価の先を目指すような動きを見せている。それは、ダブ・テクノとベース・ミュージックをダークな音像に流し込んだライナー・ヴェール「New Brutalism」、そしてザ・ウィーケンドに通じる2010年代以降のR&Bとヒップホップを交雑させたジャック・ダイス「Sip Paint」など、《Modern Love》のレーベル・カラーを拡張する作品のリリースが続いていることからも窺える。


 本作『Drop The Vowels』も、その拡張路線にある作品だ。本作を作り上げたミリー・アンド・アンドレアは、デムダイク・ステアのマイルス・ワイテカーとアンディー・ストットによるユニット。このユニットは、これまでにシングルというフォーマットで作品をコンスタントに発表し、ダブステップ、トラップ、ジュークといったベース・ミュージック寄りの音を鳴らしてきた。ふたりは共に昨今のインダストリアル・ブームを代表する存在だが、ミリー・アンド・アンドレアでは、インダストリアルから離れた音を自由気ままに鳴らしている。


 それは本作でも変わらない。もっと言えば、ミリー・アンド・アンドレアとしてやってきたことの集大成と言える内容だ。ガムランを連想させる音色が印象的な「Gif Riff」で始まり、続く「Stay Ugly」ではダブステップ以降のベース・ミュージックを鳴らしたりと、マイルスとアンディーのパブリック・イメージとは程遠い音が展開されている。


 本作でもっとも際立っている要素は、ずばりジャングルである。しかも「Temper Tantrum」はロゴスといった《Keysound》周辺のサウンドに通じ、さらに「Corrosive」ではトラップのビートで幕を開け、突如激しいジャングルに変化したあと再びトラップに戻るという荒業を披露するなど、その取り入れ方は多彩。


 興味深いのは、「Back Down」「Quay」というインダストリアル・トラックが収められていること。女性のヴォイス・サンプリングを使い、ラフなビートはシカゴ・ハウスを想起させる「Back Down」、さらにラストの「Quay」も耽美的なアンビエントに仕上がっていたりと、この2曲でふたりはミリー・アンド・アンドレアという仮面を外し、アンディー・ストットとデムダイク・ステアの顔に戻っている。そんな2曲をアルバム終盤に持ってきたのは、デムダイク・ステアとアンディー・ストットにそれぞれ回帰するストーリーを描くため? と邪推してしまったり。こうした聴き手の想像力をくすぐる遊び心も本作にはある。


 とはいえ、不満がないと言えば嘘になってしまう。というのも、本作は習作の域でとどまっているからだ。本作でのふたりは、サージョンが「The Power Of Doubt」でインダストリアル・テクノとダブステップを接続したときのような斬新さを見せることもなければ、マーク・プリチャードのように深い理解力でベース・ミュージックを消化できているわけでもない。踊り狂うクラウドで満たされたフロアに相応しい曲群を作り上げた点は素直に称賛したい。しかし、ふたりのポテンシャルからすると、シーンの流れを決定づける仕事ができたのではないか? そう思ってしまうのも本音である。



(近藤真弥)

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