AVA LUNA『Electric Ballon』(Western Vinyl / Tugboat Records)

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 ダーティー・プロジェクターズによるアッシャー「Climax」のカヴァーを聴いたとき、そのクオリティーの高さに驚かされたものだ。フロントマンのデイヴ・ロングストレスがアッシャーを好んでいるという話は以前から聞いていたが、あそこまでストレートな愛情を感じるカヴァーを聴くと、ダーティー・プロジェクターズとR&Bの関係性の深さに感銘を受けざるを得なかった。ダーティー・プロジェクターズの大きな功績の1つは、インディー・ロックとR&B(歌いまわし、コーラスワーク)をチルウェイヴとは異なった形で両立させたことなのではないかと、そのときあらためて感じた。


 ダーティー・プロジェクターズのこうした方法論をアヴァ・ルナは受け継いでいる。だが、それはトレースではない。ダーティー・プロジェクターズにおけるコーラスワークは、変幻自在のサウンドの間をある種の透明感を携えながら吹き抜けてゆき、重厚なコーラスでありながら、爽やかな印象を聴き手に与える。しかし、アヴァ・ルナにおけるそれは、緊張した空間の中をじわじわと侵食してゆく「不気味」な性質を持っていると感じた。彼らはダーティー・プロジェクターズのような突き抜け方はせずに、どこか重々しい雰囲気をまとっている。それはコーラスワークだけではなく、ジェームス・チャンス的な脱臼したファンクネスと鋭角的なギター、複雑に組み立てられた構造、変化に富んだリズム・ワークなど、全体のサウンド・デザインからも窺うことができる。


 本作『Electric Balloon』は、そんな彼らの待望の2ndアルバムだ。リリースはダーティー・プロジェクターズを発掘した《Western Vinyl》で、ミックスはメンバーのフェリシア・ダグラスの父親、ジミー・ダグラスが担当している(過去にカニエ・ウェスト、ジョン・レジェンド、デュラン・デュランなどのミックスをしている)。本作を一聴して気づくのは、サウンドが前作と比べてミニマルになっていることだ。ジミー・ダグラスのミキシングの成果なのか、曲の情報量の減少と引き換えに音が凝縮され、密度を増している。1つ1つの音が際立ち、シンプルだが力強いサウンドだ。聴かせたい音をチョイスしてそこにフォーカスを当てるという作業は、バンド側がサウンドに対して確信を持っている証拠。こういった確信が本作では堂々と鳴り響いている。また、コーラスの減少も大きな特徴で、風通しが良くなり、バンドのサウンド・メイキングに対する姿勢の変化が窺える(これはメンバーが2人脱退した影響だろう)。


 「Crown」のような、滑らかなギターフレーズが雰囲気を形作り、ヴォーカルが空間を這い回るねっとりとしたナンバーはプリンスを彷彿させ、本作だからこそ作り得たものだろう。例えばこの曲を、『Ice Level』収録の「A Year Of Mirth」と聴き比べれば、アヴァ・ルナのはっきりとした変化を感じられるだろう。他にも《ZE Records》的なサウンドをストレートに咀嚼したリード・トラック「Daydream」、アコースティック・ギターとパーカッションの重なりとズレに電子音が緩やかに絡む「Aquarium」、クラウトロック的なビートが耳に残る「Ab Ovo」などは、前作を聴いた人間からすれば、そのシンプルな構成に少なからず驚かされる。そういったシンプリティーが目立つ楽曲が並ぶ一方で、「Judy」は本作で達成した音の洗練を細部で保ちながら前作の複雑性に挑んでおり、このアルバムの最も大きな成果だと感じた。


 前述したように、本作は音の情報量が減っている。その結果、アヴァ・ルナが持っていたサウンドの鋭角性は切れ味を増し、メロウネスはより際立つものになるなど、彼らの長所がぐっと伸びた。しかし、情報量の減少により『Ice Level』で彼らが持っていた複雑性が減退したことは少々残念に思える。ジャンルを軽々と飛び越えるような雑多で猥雑な前作のサウンドは、何度聴いても飽きることのない濃密な時間を作っていた。正直なところ、本作の傾向はそういった彼ら特有の魅力が少し損なわれていると感じた。とはいえ、このチャレンジは彼らにとって非常に有益なものであったことは間違いないし、シンプルな構成だからこそ得られたものも多い。アヴァ・ルナにとって本作は過渡期の作品になるのではないか。こんなに魅力的な過渡期があるのかと思ってしまうが、アヴァ・ルナならそれも頷ける。



(八木皓平)

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