大森靖子『絶対少女』(Pink Records)

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 中森明夫の著書『午前32時の能年玲奈』のあとがきに、次のような記述がある。それは著者が撮影スタジオで、ドラマ『あまちゃん』の主演を務めブレイクした女優・能年玲奈とやりとりした際のもの。


《「二〇歳になるってどう?」と訊くと「なりたくないです」と即座に答えた。「なんで?」しばし間があって・・・・・・「少年少女が好きなんで!」その表情は、まるで女子中学生だ。「中学生? よく言われます。・・・・・・ずっと、一〇代のままがいいな~」》


 能年玲奈の大人(成人)になりたくないという気持ちは、筆者も抱いたことがある。大学に行ったのも、責任が伴う"社会人"とやらになるのを先伸ばしにするため。とはいっても、それはあくまで先伸ばし。現在25歳の筆者は大学を卒業し、ひとりの"社会人"としての処世を身につけ、何かとハードな日常を生きている。現実とは残酷なもので、誰もピーターパンにはなれないのだ。


 大森靖子は、現在26歳の女性シンガーソングライター。「PINK」というEPを経てリリースされた前作『魔法が使えないなら死にたい』が大きな注目を集め、2013年5月に渋谷クラブクアトロでおこなわれたワンマンライヴを成功させたのも記憶に新しい。そんな彼女が完成させた新たな作品、それが本作『絶対少女』である。


 まず驚かされるのは、オープニングの「絶対彼女」。キャッチーな4/4ビートと彼女の早口な歌唱が印象的で、アコースティック・ギター中心のサウンドだった前作のイメージを引きずる聴き手は肩透かしを喰らうだろう。続く「ミッドナイト清純異性交遊」も、アイドルのようにキュートな歌声を振りまく彼女の姿に驚かされる。「絶対彼女」と「ミッドナイト清純異性交遊」、冒頭を飾るこの2曲で彼女は、前作のリリースによって自身に与えられた期待やイメージから抜け出し、新たな側面を創出することに成功している。プロデューサーにカーネーションの直枝政広を迎え、多くの凄腕ミュージシャンが参加したことで得られた幅広い音楽性も秀逸だ。


 理想と現実が入り乱れたような歌詞も興味深い。《ディズニーランドに住もうとおもうの ふつうの幸せにケチをつけるのが仕事》という歌い出しの「絶対彼女」は、《やっぱ郊外に住もうとおもうの》《ディズニーランドに行ったって 幸せなんてただの非日常よ》とも歌われることで二項対立を作り上げながらも、続く「ミッドナイト清純異性交遊」はキラキラとしたサウンドが際立ち、それこそディズニーランドの如く幻想的だ。しかし、そのファンタジーはディズニーランドのそれとは異なる。このことは次の一節からもわかるはずだ。


《アンダーグラウンドから君の指まで 遠くはないのさiPhoneのあかりをのこして ワンルームファンタジー》(「ミッドナイト清純異性交遊」


 そう、いまやどんなものでも一瞬であなたの手元に届く。スマートフォンを適当に弄れば、どこに住んでいるかも分からない人がサウンドクラウドにアップしたささやかな歌を聴けるし、殴り書きで私情をぶちまけたブログだって読める。そうした現在は、数多の幻想的世界で溢れているとも言えるのではないか? そして、そんな現在に生きる私たちはSNSなどを介して顔も見えない相手と繋がれる。そこに希望を見いだすかのような一節に筆者は思えるのだ。同時にこの一節は、本作がアルバム・タイトルとは裏腹に、あらゆる人がコミットできる作品だと教えてくれる。「君」は特定の誰かではない。すべての人に当てはまる。


 本作に収められた曲群で描かれる世界観はそれぞれ異なり、時には "醜さ" を覗かせることもある。だがそれでも、個人のささやかな日常や一幕を切りとり繋ぎあわせたような『絶対少女』という作品のなかでは、すべてが肯定されるのだ。どんな生き方も、どんな価値観も、どんな言葉も、すべてがアリになる。言ってしまえば本作で大森靖子は、"美しさ" だけでなく "醜さ" も受け入れ愛している。ゆえに本作は、大人になりきれない人々を励ますような、暖かさと優しさを漂わせるのかもしれない。



(近藤真弥)

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