mothercoat「5 - 1 + 1 =」(bonjin_records)

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 永遠の未完成。ポシティヴな意味で、私がそう形容したくなる日本のロック・バンドが2組いる。ART-SCHOOLmothercoatだ。損得も恥も外聞も関係ない。ただ自らの頭の中にある何かを再現する。漫画のヒーローでもあるまいし、そういった衝動は、現実世界では必ずしもかっこいいものではない。輝くような笑顔があれば、後悔の滲み出る表情もある。それら全部ひっくるめて私であり貴方であり彼らだ。


 ART-SCHOOLの第1期メンバーでのラスト・ライヴ、2003年の新宿リキッドルーム。その日の終演後、ロビーでBase Ball Bearのドラマー堀之内大介に会った。汗だくになった彼はすごくいい表情で笑っていた。一方、mothercoatの初期メンバーでのラスト・ライヴ。2006年の新宿MARZのフロアでは、UNISON SQUARE GARDENのベーシスト田淵智也が暴れ回っていた。その日も演奏された「ガリレオ」という曲はmothercoatのライヴ定番曲だが、UNISON SQUARE GARDENにも「ガリレオのショーケース」という曲がある。曲自体が似ているわけではないが、社会への違和感、周囲との不調和が主題であること、様々な音楽要素を折衷しているという点では共通する。


 話を戻して、両日とも素晴らしいパフォーマンスだった。一度完成されたスタイルを壊し、というよりメンバー脱退のため解体を余儀なくされ、その後も不死鳥のように燃え跡からの再生を繰り返してきた2組。90年代オルタナティヴ・ロックからの影響が共通項にあり、より王道を行くART-SCHOOLに比して、mothercoatはニュー・ウェイヴ、ファンク、エレクトロニカ、フォーク、様々なキーワードが雑多に浮かぶ。乱雑につぎはぎされたようで実は整合性のあるトラックと、自由に跳ね回り韻を踏むヴォーカルは、ヒップホップの影響下にあるし、組曲的な展開を見せるナンバーは10年代のプログレッシヴ・ロックとでも呼びたくなる。


 本EPのタイトル・トラック「trickster」はギターの新メンバー加入後初の新曲であり、先述の要素がほとんど詰まっている。尖ったギター・リフとは対照的に大きくうねり反復するリズム隊、牧歌的な女性コーラスで始まり、呟くような男性ヴォーカルが加わる。知らず知らずの内に脳裏に浸食してくる、気付くと口ずさんでいる、不思議な中毒性がある。また、タイトルのトリックスターとは、神話や物語世界において、善悪どちらにも属さず世界の秩序をかき回し破壊するが、結果的に新たな価値観を創出するきっかけとなる存在を指す。それはロック・ミュージシャンの果たすべき役割の一つであるし、孤独なガリレオ・ガリレイの姿にも重なりはしないか? 


 「それでも地球は回っている」という名言ではないが、日本列島を何度も縦断し、過去にたびたびUSUKツアーを行い、20143月には、アメリカ合衆国テキサス州オースティンにて開催されるSXSWJapan Nite」に出演する。ライヴ、録音、音源流通、おまけに家庭菜園。すべて自給自足を掲げ、何物にも縛られず、お世辞も綺麗ごともなしに我が道を行く。メジャーもマイナーもポップもアヴァンギャルドも区別ない。良い悪いの問題ではなく、おそらく日本で最もインディペンデントなミュージシャン集団。それがmothercoatだ。



(森豊和)

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