METRONOMY『Love Letters』(Because / Warner)

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 はるか過去に書かれた未来小説、あるいは全てが終わった後の静けさ。メトロノミー4枚目のアルバムである本作から私が受けた印象だ。


 2000年代後半、クラクソンズとの交流からニュー・レイヴの文脈で注目された彼らは、しかし当時のシーンから背を向け、80年代的なシンプルなアナログ・センセの音色を用いて極上のソウル・アルバム『Nights Out』を作り上げた。次作3作目『English Riviera』では70年代ウエスト・コースト・サウンド志向を加え、本作でも60年代ガールズ・ポップ風から、雅楽、教会音楽を思わせるような曲まで様々だ。最新技術を用いて時代を遡っていく、まるでタイムマシンのようなユニット。ニュー・レイヴが「ニュー」でなくなり、当時のアクトの多くが精彩を失い苦境に立たされている今、むしろ彼らの音は洗練され、存在感を増している。


 表題曲「Love letters」は、2台のシンセサイザーとベース、ドラム。それに女性コーラス隊とともに演奏される。フロント・マンであるジョセフ・マウントは痛切な表情で絞り出すように歌う。繰り返されるフレーズは「僕はラヴ・レターを書き続ける」。決して届くことのない、読まれることのない手紙。それでも彼は強迫的に歌い続ける。記憶のなかで生きる、誰よりも素敵な君へ向けて。


 リード・シングル「I'm Aquarius(みずがめ座)」や終盤の「Reservoir(貯水池)」など、水に関連した曲が多いが、後半の1曲「The Most Immaculate Haircut」はその流れのなかでも一際、興味深い。曲の中盤、間奏がフェイド・アウトして、単調な虫の音や何かが水に飛び込む音がする。官能的なファルセットのヴォーカルと相まって、性的なイメージを喚起する。


 そういった強烈なインパクトを残す曲がある一方で、全体を通して聴くと、昼寝に最適というか、皿洗いのBGMになるというか、つまり邪魔にならない。かつて栄華を誇った王国、その宮殿の廃墟で流れているような音楽。その王国の名前は、かつてオブザーヴァー紙が提唱した、ニュー・エキセントリックというやつかもしれない。


 思えばメトロノミーはデビュー当初から一貫して、同様のフィーリングの音を鳴らしていた。簡素でスマート。一音一音のアナログな響きを大切にしながら、少しずつ過去に学び、伝統的な衣装を身に着けていく。時代の残骸から離れ、一歩一歩着実に進んでいく。逆説的だが、過去への旅は、時に未来へとつながるのだ。




(森豊和)



【編集部注】『Love Letters』の国内盤は3月26日リリース予定です。

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