TEMPLES『Sun Structures』(Heavenly / Hostess)

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 昨年のEPで、「おお、なんだ、こいつら? すっげーよくないか?」と猛烈に感じさせてくれた、UKの田舎...地方都市バンド、テンプルズ。先頃リリースされたファースト・アルバムを聴いて、その思いはさらに強くなった。こうやって50分以上のアルバムを何度プレイしても全然飽きがこないどころか、さらに聴きたくなってしまう。極めてポップなメロディーの魅力が、それに大きく寄与している。なんというか、とても間口が広いのだ。


 そんなこともあって、ぼくはこのアルバムから突然「グループ・サウンズ」などという言葉を思いだしてしまった(ここ日本での習慣にのっとって、以下GSと略す。まあ、これは「ほぼ」日本でしか通用しないタームですが:笑)。


 古い記憶をたどれば、70年代、とりわけそのブームが下火になったころの日本で、GSは「ダサいもの」の象徴だった。メンバーたちの思いは考慮にいれず巨視的に見てしまった場合、「ビートルズ以降にロックの本場である英米で起こったバンド・ブームを芸能界が商業的にとりいれたもの」というマクロな図式が、誰の目にも明らかな形で提示されてしまっていたから。


 しかし、80年代のレア・グルーヴ・ブーム以降に再評価されていくなかで、GSのもうひとつの(いわば、ミクロ面の?)本質がクローズ・アップされていった。60年代なかば以降のUSで、まさに雨後の筍のごとく登場した、いわゆるガレージ・ロック/ガレージ・サイケデリック・バンドとGSは、実は音楽的にとても近かったのではないか?


 そんな評価の流れにとどめをさしたのは、70年代の末ごろからリヴァプールをベースにガレージ・サイケデリックな音楽をやりつづけてきたジュリアン・コープが07年に本国で出版した『ジャップ・ロック・サンプラー(Japrocksampler)』。「ジャップ」という単語が日本人に対する蔑称として(とくに第二次世界大戦を経験した世代とかに)一部で使われていたことは、たぶん彼も知っているだろうが、彼はそれより10年以上前に『Krautrocksampler』という本も出している。その書名はドイツのファウストというバンドの「Krautrock」という曲名からとられている。その造語には、実は「イギリス人がドイツ人をみたときにありがちな、ちょっとバカにするっぽいニュアンス」もこめられていた(つまり、ファウストにしてみればある種の「自虐的」センスをこめたものだった。まあ、80年代の日本に、ジャップ・レコーズというパンク・レーベルがたしかあったことと同じように:笑)。


 『Krautrocksampler』出版後、ファウストやカンやノイなど、ドイツの60年代~70年代ガレージ・サイケデリックをクラウトロックと呼ぶことが、世界中で定着した。ジュリアンの思いとしては、『Japrocksampler』はその「続編」という意識があったはず。対象に近寄りすぎることのない「客観性」に貫かれた(UKっぽいブラック・ユーモアもまじえつつ)作られたガイド本。もしかすると「専業評論家」にはできなかったもしれない優れた仕事を、彼は10年という時間の流れをへて、2度もなしとげた。残念ながら(少なくともここ日本では)ジャップロックというジャンル名は決して定着しなかったものの、ぼくはあえて(もう一度)こう言いたい。


 テンプルズの音楽って、まるで「最も優れた60年代~70年代前半のジャップロック(もしくはGS)が、今の空気をいっぱい吸いこんで突然変異を起こしつつ、現代に甦ったようだ」と!


 ここまで書き進んだ今、昨年クッキーシーンに載った彼らの「Shelter Song」EPのレヴューをチェックしてみたところ、筆者である(ぼくと同じく日本人の)森くんも、その音楽からGSを連想していたらしい。やっぱ、そうだよね...と同意しつつ、彼らは「自らの音楽をネオ・サイケデリックと称している」とも書いてあった。


 なるほど。ちなみに、この「ネオ・サイケデリック」というターム、80年代の日本では(主に『フールズ・メイト』誌をとおして)ちょっと日本独自のイメージをまとっていったのだが、もともとUKでは70年代末ごろ、先述のジュリアン・コープ率いるティアドロップ・エクスプローズや、彼らと同じリヴァプールのクラブ(エリックス)を根城にしてたエコー&ザ・バニーメンらの音楽を指すものとして使われはじめたものだった。


 なんとなく、感慨深い...。


 そして、もうひとつ。ぼくは、この音楽の開放感からGSを思いだしたのだが、昨年のEPもこのアルバムも1曲目は「Shelter Song」。シェルターって言葉と開放感は理論的に並立しないのでは? などという「自己つっこみ」に対する返答(笑)で、この原稿をしめくくりたい。


 だから、あれを思いだせばいい。


 やはりエリックス周辺から育っていったバンド、ペイル・ファウンテンズが80年代なかばに残した、傑作ニュー・ウェイヴ・ロックンロール・アルバム『...From Across The Kitchen Table』冒頭を飾る「Shelter」って曲の歌詞。《隠れてみよう、このちょっとしたシェルターに、ぼくと一緒にさ!》。朗々と歌われるその一節を聴くたび、とても広々とした風景が、なぜかぼくの頭の中に拡がっていった。


 『Sun Structures』は、まさにそんなアルバムだ。



(伊藤英嗣)

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