二階堂和美『ジブリと私とかぐや姫』(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)

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 これは心に優しい盤ですよ。癒しというよりも、活力を与えてくれるような。それも無理に元気にさせるのではなく、自然にエネルギーを注ぎ込む。気がつけばあったかい毛布に包まれてるみたいにぬくぬくしている。そんな歌たち。


 《K》レーベルのアーティストと国内、海外ツアーし、《カクバリズム》からリリースしていた彼女がまさかジブリの主題歌を歌うことになるなんて! これは映画『かぐや姫の物語』主題歌「いのちの記憶」に加え、高畑勲監督の映画主題歌のカヴァー曲も含む企画盤だ。このアルバムから伝わってくるのは、例えば家族だんらんの空気だったり、若い頃の胸のときめきだったりする。後者も苦しいものではなく、性急な感じもしない。人生の様々なことを経験した上で、過ぎ去った日々を俯瞰しているようだ。彼女の夫や子どもに対して歌いかけている部分もあるだろうし、もちろん不特定多数の"あなた"へ対してでもある。


 かつて一度だけ二階堂和美に会ったことがある。会ったといっても飲み屋でのライヴを観たということだ。しかし「会った」と表現したくなるような親密さを感じたのである。その日のMCで彼女は言った。「アルバムは再来年に出します」。思わず「遅い」と呟いてしまった。文句ではない。「素晴らしい歌だから早くリリースすればいいのに」という意味で口をついて出た。彼女は即座に言い放った。「遅くない!」。あざやかな切り返し。こちらの言葉を否定するのではなく笑顔で包み込む風だった。


 彼女の歌は人を拒まない。聴く者一人一人に向かい合う。目の前でささやかれているようで、同時に一つ一つの言葉が丁寧で力強い。言葉が踊る、舞う、くるくる表情を変える。CDをかけて目を閉じれば彼女の表情が浮かぶ。僧侶でもある彼女の半生が伝わってくる。


 後半のカヴァー曲もいい。彼女の視点で歌われると新たな魂が宿る。アルバム全編を通して効果的に用いられる和楽器の音色と相まって、私たちをどこか遠くにある桃源郷に誘い出す。


 《いまのすべては 過去のすべて》と歌う「いのちの記憶」を聴いて思い出したのだが、(主に)うつ病に対する治療技法で認知療法というものがある。「今ここで」の問題に焦点をあて、患者が思考、気分、行動を変化させるのを援助する手法だ。その前提として治療者にはあたたかさ、共感、思いやり、誠実さといったものが必要とされる。そのルーツは仏教説話のような宗教の講話にあると思う。


 彼女の歌がジブリ主題歌になって日本中で聴かれている。ラジオやテレビから、もちろん映画館でも、日常的に不特定多数の人々に対してちょっとしたセラピーが行われているみたいで、こんなに素敵なことってないんじゃない?



(森豊和)

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