プリファブ・スプラウト

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PREFAB SPROUT


今もAtariを使ってるんだよ

30年間ずっと(笑)


時代に左右されないエヴァーグリーンなポップ・ミュージック。最上級の褒め言葉としてよく使われるフレーズだが、それはこの10年代なかばに完成した、プリファブ・スプラウトのニュー・アルバムにこそふさわしい。


20世紀という「ディケイド×10」をとおして、資本主義とわかちがたく結びついてきたポップ・ミュージック。「100年たった関係」といえば、普通の夫婦関係よりよっぽど長い。そんな腐れ縁(?)が簡単に解消できるはずもない(笑)。しかし、インターネット/パーソナル・コンピューターという「鬼子」をとおして、それらのあいだに、今「新しい関係」が生まれようとしている。ぼくは、本気でそう思っている。


写真を見ると、すでに何千年も生きた魔法使いのジジイに見えるプリファブ・スプラウトことパディ・マクアルーンは、まだ50歳そこそこ。筆者と数歳しか違わない...(ひええ)。ポスト・パンクの時代から刻まれた年輪のみならず、まだまだ若い活きた大樹の香り漂うニュー・アルバム。もし筆者がキャッチ・コピーつけるとしたら...アタリ・シシュンキ・ライオット? 一体どんなふうに作られていったのだろう? 完成の秘密に迫るべく決行された、「公式インタヴュー(それゆえ紙媒体でもネット媒体でも無断引用ご自由に:笑)」フル・ヴァージョンを、どうぞ!


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photo by Kevin Westenberg

ニュー・アルバム、素晴らしいです! 前作『Let's Change The World With Music』が(いい意味で)大上段にふりかぶった「大きなテーマ」みたいなものを持っていた...そういう文脈で言えば「ヒップホップやロックにも通じる部分も感じられた」のに比べ、今回は(これまたいい意味で)より肩肘張らずに楽しむこともできるというか、まさに「ポップ・ミュージックの神髄」を極めつつあるようなアルバムかと...。こんな意見について、どう思いますか?


パディ・マクアルーン(以下P):ありがとう! このアルバムは何年も前から温めてきた楽曲ばかりを収録した自信作。歌詞の内容も力強くて強烈、そして歳を重ねた自分の人生を描いたものを中心としている。というのも、ぼくはもはや若くはないし...(笑)。お気に入りのナンバー「Adolescence」では、自分の10代のころを歌っている。あと「The Old Magician」に登場する"年老いたマジシャン"っていうのは、ソングライターであるぼく自身のことを指している。


そうなんですね! 後者は"そうかも?"と思ったんですが、まさにそのものズバリ...。あなたは意外に"直球"な人(笑)? さて前作は、もともと昔に作ろうと思っていた未発表アルバムのセルフ・リメイクと言える面もあったり(前作の長い)セルフ・ライナーノーツではあなたが音楽に目覚めたころのことをかなり濃く書いていたり、「たまっていたものをはきだせた」部分があったのかもしれません。それゆえ今回は「今の自分」に集中できた...のでしょうか?


P:いや、新作でもこの16年ほど書きためてきた楽曲を収録した...んだけど、まあ、何年も書きなおしてきた曲と言った方が正しいかなあ...。「Grief Built The Taj Mahal」と、さっきも言った「The Old Magician」は1997年に書いた曲。当時は老人になった自分を想像して「The Old Magician」を書いたんだけど、レコーディングするにあたって、昨年新たに歌詞を書きかえた(笑)。


なるほど(笑)。


P:なんたって16年も経ち、ぼくも歳をとったからね。でも、うち10曲はいろいろ手を加えて書き直して昨年10月にレコーディングしたから、今っぽさは出ているのかもしれない。要領のいい進め方とは思えないけど...(笑)。


そこが、あなたいいところでは(笑)?


P:実はこのアルバム、数年前に完成すべき作品だったのに...なんと恥ずかしいことにマスター納品〆切日をすっかり忘れていたんだよ...。そんな重要なことを忘れてしまった自分に対して、怒りと恥ずかしさを感じた...。ここ最近は聴力の関係で、ほかのミュージシャン達が演奏する大音量の音は聴けないから、ずっと独りで作業を進めてきた。レコーディング終了後は素材をエンジニアのカラム・マルコムに渡し、カラムがミックスとマスタリングを担当した。


今回のアルバムのアレンジやサウンドは、前作以上に「今っぽい」と思いました。あなたは、今回のセルフ・ライナーノーツで「Remember: No one questions a Snow Leopard.」と書いていますが、これは制作においてMacが大活躍したということですか(注:Snow Leopardとは直訳すれば雪豹だが、MacのOSX 10.6シリーズの商標でもある)。


P:ミステリアスなコメントに聞こえるかもしれないけど、実はこれは単なる内輪ネタ(笑)。昨年4月にうちの弟マーティン、甥っ子のジョナサン、ぼくの3人でギターを弾きながら12~13曲デモ・レコーディングし、サウンドの仕上がりをチェックした際、老いをテーマにした「Mysterious Power of Woman」という曲の歌詞に「No one questions a Snow Leopard」という一行があって、ジョナサンがいたく気に入っていたからセルフ・ライナーノーツにプライベート・ジョークとして記しただけ(笑)。


ああ...(笑)!


P:ぼく自身、Macは使ったことがないんだよね。使えればいんだろうけど、派手な液晶モニターは目に悪いから...。今も80年代のAtariを使ってるんだよ、30年間ずっと(笑)。慣れているから使い方も楽だし、古いパーソナル・コンピューターだと目が痛くならない。ぼくがレコーディングした素材を使って、エンジニアのカラム・マルコムがMac...アップル社のパーソナル・コンピューターで作業したから、今っぽいサウンドに仕上がったんだろうね。


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photo by Kevin Westenberg


なるほど、Atariですか! Macとかより全然すごい(笑)! ここから、具体的に曲のことなどをいくつかうかがっていきます。1曲目「The Best Jewel Thief In The World(世界一の宝石泥棒)」、オープニング・ナンバーとしても最高の曲だと思います。このメロディーやアレンジ、そして歌詞に漂う"あくまで現実を見すえた...決してエスケーピズムに浸りきっているわけではないロマンティシズム"は、まさにプリファブ・スプラウト!"というか。この曲において、あなたは《You're the best jewel thief in the world(きみこそは世界一の宝石泥棒)》と歌っています。それは「"パクり...もしくは引用"に関してものおじしない、パソコン/インターネット世代だけど、見所のある若者」に対して歌われているとも思えますが(笑)ぼくら聴き手としては、パディー、あなたに向かってもこう言いたい...みたいな...。そう言われて、どう思いますか? 


P:ああ...。ぼくとしては「"引用"に関してものおじしない、パソコン/インターネット世代だけど、見所のある若者」に対してじゃなくて、「危険かつエキサイティングなことを冒す人全般の姿勢(アティテュード)」のことを歌っているつもりだった。つまり、ソングライターの姿勢の比喩(メタファー)。これって仕事中のソングライターのアティテュードと共通しているよね。ぼくの場合、毎日座って楽曲制作に向かう時、「あー、一体どうすりゃいいんだ?」という気持ちから始まるから、「おれは最高のソングライターだぜ!」って自信たっぷりなアティテュードで挑むように心がけてる。そう、むりに言いきかせてるんだ。たとえ心配症かつ謙虚な人間だったとしても、曲作りの時くらいは自信を持たなきゃね(笑)。


とても共感できます...。さっきの質問を受けて言えば、"ポップ・ミュージックの歌詞における作者/歌手/聴き手の関係を考えたとき、一人称/二人称/三人称という区別はとても曖昧なものになっていく"というのが、ぼくの持論です。そんな意味でも3曲目「Adolescence(思春期/青年期)」の歌詞、実に興味深かったです。この曲、思春期/青年期のまっただなかにある若者に向けて歌いかけているようで、あなた自身がまだ思春期/青年期的な感覚から抜けきれていないことを現しているようで...。実際アルバム・タイトル『Crimson/Red』は、この曲の《Adolescence Crimson/Red fireworks inside your head(青年期につきものの、深紅の/赤い花火が、頭のなかにある)》という一節からとらたのかと...。どうなんでしょう? あなた自身はどこか「中2病」的...「永遠の思春期/青年期のなかにいる」のでしょうか(笑)?


P:うん。「思春期中の男子」的な要素はたしかにあるなあ...(笑)。この曲では一部自分のことを歌っている。それから、老人が自分の若いころを思い出し、若者達にアドバイスしているって面もたしかにある。ぼくには3人の娘がいるし。そうそう、たしかにアルバム・タイトルは「Adolescence」の歌詞から来ているんだよね。アルバム収録曲の1曲にしたくはなかった。「深紅(crimson red)」は刺激的(=evocative)でカラフルかつ情熱的な色だよね。


まさに燃えあがるような。「Adolescence」冒頭の《Adolescence - what's it like? It's a psychedelic motorbike(思春期って どんな感じ? それはサイケデリックなバイク)》というフレーズ、マザーグースに通じるようなかわいさとバイカー的ワイルドさ...内省と危険さが入りまじってて、まさに「名言!」とひざをたたきました。こんなんフレーズ、どうして思いついたか、憶えていますか?


P:どうして思いついたかは...わからない。もともと《Adolescence - what's it like? It's a pink fluorescent motorbike》という歌詞だったけど、アークティック・モンキーズの曲に「Fluorescent Adolescent」という曲があったから《psychedelic motorbike》に変えたんだ。


へえ!


P:まあ、このfluorescent adolescentってフレーズを思いついたのはぼくが先だった...んだよね(笑)。制御できない10代(の気持ち)を描写するのに"サイケデリック"って言葉がピッタリだと思った。ここまでピッタリな表現を思いついてラッキーだね。もっとこういう表現を思いつけたら...。


いやいや、ほかにもたくさん...! ぼくのまわりのプリファブ・スプラウト・ファンには「『Steve McQueen』(85年)か『Jordan: The Comeback』(90年)が一番好き」という人が多いのですが、実はぼくは、09年の"久々の復活"以前のアルバムでは『From Langley Park To Memphis』(88年)がいちばん好きだったんです。そして『Crimson/Red』には、ちょっとそれに近い部分があるかな? と思ったり...。ひとりきりで作ってるのに「バンド」っぽいから? もしくは黒人音楽からの影響がより直接的に強く感じられるから? とか、あくまで印象論だったんですが...。いかがでしょう?


P:うん。他のプリファブ・スプラウトのアルバムもそうだけど、今回もまた「バンド」っぽいサウンドを目指した。そしてオープニング曲の「The Best Jewel Thief In The World」は、たしかに『From Langley Park To Memphis』収録曲「Cars And Girls」を彷彿させるよね。意図的に80年代風になった訳じゃないけど、DNAというか、はっきりとした特徴というか...。作風が無意識のうちに自然に似てきちゃうんだと思う。


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photo by Kevin Westenberg


先ほどぼくは、"あくまで現実を見すえた...決してエスケーピズムに浸りきっているわけではないロマンティシズム"というフレーズを使いました。その"現実を見すえている"感が強く出ている部分としては、5曲目「Devil Came A Calling」や、さっきも話に出た9曲目「The Old Magician」の歌詞が挙げられるかな...と。これらには、ポップ・ミュージック・ビジネスに関わってこざるをえなかった人ならではのリアルさと厳しさ、そして9曲目には一抹の優しさが漂っているように感じました。つまり、いい意味での"年輪"を感じさせるというか。こんな意見について、どう思いますか?


P:それはおもしろい意見だね! 歳を重ねるにつれて、これまでの自分の人生を振り返り、「自分は一体いい人間だったか?」、「他人のためにいいことをしてきたか?」と考えるようになった。例えば、「Devil Came A Calling」だけど、今振りかえると80年代って「悪魔に魂を売る」ような、魅惑的かつ誘惑的な時代で、人を欺くような風潮があったと思うし。


ですよね...。8曲目「The Songs Of Danny Galway」の歌詞は、おそらくあなたも影響を受けたミュージシャンのひとり、ジミー・ウェッブと関係があるのでは? という意見をネットで見ました。実際にそうなんでしょうか?


P:うん。そのとおり。数年前に初めてジミー・ウェッブとアイルランドで会い...共演したんだよ! この曲はジミー・ウェッブへ捧げた曲。子どものころはジミー・ウェッブが書いたグレン・キャンベルの楽曲が大好きだった!


浅学にして知らなかったんですが、ダニー・ゴールドウェイとは誰? それとも、「Mysterious」(ラスト・ナンバーのタイトル)なままにしておいたほうがいいのでしょうか(笑)?


P:いや、大丈夫。ダニー・ゴールドウェイは架空の人物。ジミー・ウェッブのことを考えながらこの名前を思いついた(笑)。


ありがとうございます(笑)。今回のアルバムの"エレクトロニックな"部分には、かつてあなたたちのプロデュースを手がけていた、トーマス・ドルビーの影響を感じました。まあ、あたりまえといえばあたりまえですが、こんな言い方について、どう思いますか?


P:ありがとう。トーマス・ドルビーは実に素晴らしいサウンド・デザイナーだよね。プロデュース依頼する前から大好きだった。でも、トーマス・ドルビー以前のアーティスト達からも影響を受けてきたからなあ...。子どものころはカールハインツ・シュトックハウゼンの大ファンで、ファンレターを書いたらなんとシュトックハウゼン本人から譜面入りの返事が来たことがあってね!


すごい!


今でも大切にとってあるよ(笑)。


このアルバムの制作中もしくは準備期間中によく聴いていた、もしくは偶然耳にして特に影響を受けたような音楽はありますか? 昔からおおいなる影響を受けてきたであろうブライアン・ウィルソンとかは別にして。


P:制作が大幅に遅れてしまった関係で、なにしろ大急ぎで制作に取りかかっていたから、朝6時から夜8時までずっとスタジオ・ワークに集中していた。一日の仕事が終わると、もう疲れちゃって...音楽を聴く気にはならなかった(笑)。通常はマイルス・デイヴィスからリー・スクラッチ・ペリー、パブリック・イメージ・リミテッド...ジャー・ウォブルまで何でも聴いているよ。料理する時も、友人達が遊びに来てお茶を入れる時もね。


6曲目「Billy」で歌われる内容(《秘密を教えてよ、ビリー、ぼくは言った/隠してないで教えて、ビル/きみの玄関につれていってほしい、ぼくには知らないことが多すぎる》《ぼくには音楽の才能がない、ウィリアム/音楽の才能なんかないんだよ、ビル、彼は言った/「6ペンスの...小銭の得られるうたを歌えばいい、ただし、ずっとやりつづけるんだ」》《ほんとうの気持ちをこめるんだ 心の底から正直に》という部分に、ものすごく感動しました。これは、あなた自身から若者たちへのメッセージでもある...と言ってしまいたいんですが...、だめですか(笑)?


P:いや...。


ほお...。


P:この曲は「自分を上手く表現する秘訣」について、自分に話しかけているんだ。自分には音楽の才能があるかもしれないけど、ないかもしれない...。こればかりは謎だから...。お気に入りの曲のひとつだね!


ありがとうございました! 次作も楽しみにしてます!


P:今日はありがとう。日本にはもう随分長いこと行っていなくてごめんね。文化の異なる日本のみんながプリファブ・スプラウトを応援してくれることを嬉しく思っているよ。本当にどうもありがとう!


2014年1月

質問作成、文/伊藤英嗣



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プリファブ・スプラウト
『クリムゾン/レッド』
(Icebreaker / Sony Music)

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