曽我部恵一の「独り言」 〜『超越的漫画』アルバム評 〜

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今回は吉田峻さんから投稿をいただきました。

以前、豊田道倫に関する記事を書いてくれた方です。

そして今回は曽我部恵一。内容のほうは、まあ、読めばわかるように、
反骨精神が出てますね。こういうの嫌いじゃないです。

もちろん興味深い視点もあります。


(近藤真弥)



なお、このコーナーでは、常時みなさまからの投稿を受けつけています。ただし、投稿に関するルールがいくつかあるので、それをふまえたうえで投稿していただけたらと思います。以下がそのルールになります。


・文字数は最低でも1000字以上。


・原稿の内容は、音楽に関することを主題にお願いします。ただ、主題と文脈的に繋げられるなら、アニメ、映画、小説、哲学など、他要素を混ぜても問題ありません。


・掲載する際には、投稿されてから10日以内に編集部のほうから連絡させていただきます。連絡がない場合は、申し訳ないのですがボツということになります。


・送っていただいた原稿の表記については、クッキーシーンにおける表記統一の決まりに合わせるため、編集部側で変える こともあります。それらがあまりに大量になったり、それによって文章のトーンが変わってしまう場合など問題があると判断した場合も、編集部のほうから連絡 させていただきます。


音楽について語りたい欲求がある若者から、いまだ中二病が心に残っているせいで音楽にロマンを求めてしまう大人になりきれない大人まで、どんな方でも大歓迎です。FEEDBACKのところから投稿できます。よろしくお願いします!

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 曽我部恵一のアルバム『超越的漫画』が発売された。音楽誌やWeb上の音楽サイトに氏のインタヴューが多く掲載されている(このアルバムの製作意図は「自分の記録としての歌」「独り言」「プロテストソング集」というところのようだ)。ツイッターでは感想・批評が多くつぶやかれているが、インタヴューで語られた作家の制作意図をなぞる感想ばかりである。あるいは制作意図への賞賛に終わっているような感想もある。批判も「今までの曽我部恵一の歌とのギャップへのとまどい」程度のものが見られるだけだ。「独り言」を歌って、「独り言の大切さ」を歌ったのに、異口同音の感想が並ぶのを見た曽我部氏の心中はどうだろう? 「バカばっかり」「ひとりじゃなんにもできないやつらが...」というところではないだろうか。私はそういう聴き方をして、「きっつい歌詞だなあ」と思うわけである。アルバム最後の歌「バカばっかり」はこんな歌詞だ。


  バカばっかり バカばっかり

  バカやろうがまたすべてをめちゃくちゃにしてく

  バカばっかり バカばっかり

  バカやろうがまた言葉に火をつけ燃やしてる


  バカばっかり バカばっかり

  バカやろうが自分の描いた絵に酔って泣いてる

  バカばっかり バカばっかり

  バカやろうがにやけた顔でへらへら笑ってる


 このように、イラついて「バカばっかりだな」と吐き捨てたのを、そのまま歌ったような歌詞だ。冒頭の歌「ひとり」は次のような歌詞。


  ひとりじゃなんにもできないやつらが

  ひとりじゃなんにもできないやつらが

  2、3人あつまって なんかやってるってよ


 ひとりじゃつまんないやつ。服もちょっとおしゃれでつまんない。歩いていても魅力がない。顔に深みもない。そういうやつらが2、3人集まって、人より面白いようにしている。気に食わねーなー。そういう気持ちを吐き捨てている。この歌は結末が秀逸である。きつい。


  さみしいんだね


 私はドキンとしてしまう。口ずさんだりなんかできない。「うわ、おれのことだ」とうろたえてしまう。


 私は曽我部恵一のよいリスナーではない。ソロ・アルバムの何枚かをリアルタイムで、サニーデイ・サービスのアルバムの何枚かを後追いで聴いたことがあるだけだ。買った当初は繰り返し聴いたが、今に至るまで聴き続けているものはない。


 それでも『超越的漫画』を買ったのにはわけがある。それは曽我部恵一の「独り言」=「するどいツイート」に何度か瞠目したからだ。たとえば、今年7月の衆院選の日。TVの選挙速報に映しだされる石破茂の真黒に日焼けした姿がツイッターで話題になった。曽我部恵一(@keiichisokabe)は次のように独りごちた。


石破さんの身体的アレのこと言うのそろそろやめません?


 たしかに、よってたかって人の外見を馬鹿にするのはよくない。しかし、共感が多かったとは言えない。31人がリツイートし、12人がお気に入り登録している。ドキンとした人が少なかったのだろうか。それとも「つまらないこと言うな、優等生」とでも思ったのだろうか。


 この独り言が優れているのは、正しいことを言ったからではない。多くの人が盛り上がっていることに対して、「ちがうよ」と言ったからだ。ここでの独り言は、気の弱い男の子のようだ。中学校の教室で、授業中みんなが大騒ぎしている。そこでひとり「静かにしようよ」とつぶやくようだ。しかし、曽我部恵一は気の弱い男の子ではない。だから「そろそろやめません?」の「ません?」という丁寧な言葉に大人の怒りがあらわれているし、「そろそろ」には「いい加減にしろよ」という苛立ちがうかがえる。一人の怒れる男だ。それでも気の弱い男の子のようなのは、「31人がリツイート、12人がお気に入り」だからだ。ほぼ黙殺と言ってよいだろう。教室の騒がしい笑い声(「げらげら」)にかき消された(2013年7月24日時点での@keiichisokabeのフォロワーは85781人)。

 

 以下は「ひとり」の歌詞。


  ひとりじゃ笑えないやつらが

  ひとりじゃ笑えないやつらが

  2、30人あつまって げらげら笑ってるって


  ひとりじゃ怒れないやつらが

  ひとりじゃ怒れないやつらが

  2、3千あつまって みんなで怒ってるってよ


 曽我部恵一は正しく「ひとり」で怒れる人である。対する曽我部恵一のフォロワーは「ひとりじゃなんにもできない」「バカばっかり」である。異口同音の感想をツイートする曽我部恵一のリスナーも同様だろう。


 しかし、このような「独り言」は歌になっていない。石破茂に関するツイートのような独り言は『超越的漫画』には見られない。音楽ライターの田中宗一郎のツイートを曽我部自身がリツイートしていた。RCサクセション『楽しい夕に』は曽我部自身がインタヴューで引き合いに出しているから、別に卓見でもない。ちなみに田中宗一郎のツイート、次のようなものだ。


 「曽我部恵一新作『超越的漫画』は日本で唯一、忌野清志郎がやってたことに肉薄したアルバム。曽我部恵一以外、日本じゃ、誰もメッセージ・ソング書けない。


 しかし実際には、忌野清志郎の詞と曽我部恵一の詞は違う。違いは曽我部恵一の詞における「ぼく」の不在である。忌野清志郎の詞(初期RCサクセションの詞)であれば、「ぼく」が出て来る。とくに攻撃的な詞であれば、必ず「ぼく」が出て来る。たとえば、RCサクセション「あの娘の悪い噂」。


 あの娘の悪い噂 聞かされる

 聞きたくないのに


 あの娘の悪い悪い噂

 ぼくは信じない 信じない


 どんな噂も 手遅れなのさ

 ぼくがあの娘を 知ってしまったんだから

 どんな噂も遅すぎるのさ


 次に攻撃的な「わるいディレクター」。はじめは「ぼく」が出て来ないが、「ぼく」という主語は省略されているだけだ(述語は「怖いから何も言えない」)。


  あの人は放送局のディレクター

  とても悪い悪いディレクター


  利己主義で高慢でどうしようもない人さ

  だけど怖いから何も言えないよ

  干されたら大変さ


 そして最後に満を持して「ぼく」が登場する。


  音楽なんか 何にもわかっちゃいないのさ

  だけど僕怖くって何も言えないよ


  僕が今言った事 全部内緒だよ

  干されたら大変さ


 忌野清志郎の詞を見ると、「ぼく」が不可欠なのだとわかる。その「ぼく」は「僕怖くって何も言えないよ」というような「気の弱いぼく」である。対する曽我部恵一の『超越的漫画』に「ぼく」が登場するのは、「うみちゃん、でかけようよ」「もうきみのこと」「そかべさんちのカレーライス」「6月の歌」「バカばっかり」の5曲。


 しかし曽我部恵一の「ぼく」は、「どこにいるのかわからないぼく」だと感じる。「歌のためのぼく」である。忌野清志郎のように「僕」が実存している様子がない。だから「気の弱いぼく」ではない。「生活を歌った歌」を仕上げるための「ぼく」である。


 先に挙げた5曲の中では、「もうきみのこと」が忌野清志郎に近いように見える。しかしこのサビ以外の歌詞が「ぼく」のことを歌っていないので、「ぼく」が実存していない。


 田中宗一郎の言う「忌野清志郎への肉薄」に対して、曽我部恵一の歌には「ぼくの不在」があると私は反論したい。しかしこれは「ひとり」とか「バカばっかり」の高度な詞の価値を落とすわけではない(どちらの歌も「ぼくの不在」により、そのきつい言葉が「どこから飛んできているのかが分からない」ことに魅力がある)。「忌野清志郎とは違う」というだけの話である。さらに言えば、曽我部自身も言う「独り言」は「独り言じゃないんじゃないか」という話である。



(吉田峻)

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