立花ハジメ『Monaco』(Self Released)

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 プラスチックスのメンバーとして知られる立花ハジメのアルバム『Monaco』は、保証書が付いてくるという斬新な作品である。2012年のオヴァル『Ovaldna』のように、ライナーノーツをデータとして収録する試みだけなら以前にも存在したが、そもそもCDで出さずにUSBというフォーマットでリリースしたのは面白い。収録されているのはアルバム音源(新録+プラスチックスの77年のライヴ)、フォント2種、デラウェアのサマタマサト氏によるデジタル・ライナーノーツの3つ。


 1976年に結成されたプラスチックスは、79年に《Rough Trade》から発表したシングル「Copy / Robot」を経て、80年にファースト・アルバムをリリース。同年ニュー・ヨークでB-52ズやトーキング・ヘッズのサポート・アクトをおこなったのち、81年のトーキング・ヘッズ来日公演では二度目の前座を務めている。トーキング・ヘッズが79年に初来日したときは、プラスチックスがツアー・パンフレットやポスターのデザインを担当。B-52ズのジャパン・ツアーのパンフレットもデザインしており、プラスチックスはデザイナー集団としても活躍していたようだ。それらのアート作品は本作のデータ内にも使用されている。


 ポリティカルで限定的だったパンクが音楽性や表現など本当の意味で自由になったポスト・パンク/ニュー・ウェイヴという時代に、プラスチックスはテクノポップとして鮮烈にデビューし、そして81年にあっという間に解散したわけである。彼らがアートで表現し伝えたかったもの/伝わってきたものは、何かに対するメッセージよりもスタイルであり生き方だった。その先駆的な試みによって、時代を先取りした彼らは後進に多くの影響を与えた。このアルバムに収録されている「Max's Kansas City」という曲の歌詞には、当時ニュー・ヨークで活躍した多くのロック・バンドの名前が出てくる。それらをどこか昨日のことのように話している気がして、この作品自体が自主制作で好きなことをやっているだろうと思うからこそ、昔のライヴ音源であったりデザインであったりというこれまでの活動を含めて収めた自身の半生を網羅する作品になっていると思う。


 ところで、アルバムのタイトルになっている"Monaco"というのは、フォント=書体の名前の一つ。いわゆるビットマップ・フォントで、付属された六角形のパズルアートのようなものもビットマップを彷彿とさせる。筆者は90年代半ば頃からマックを使用しているが、英語フォントは都市名が使われていて(漢字Talkが出てきて日本語もOsakaやKyotoが使われるようになったと記憶している)、この『Monaco』のアートワークに使用されている文字が、"Monaco Family"という今回収録されているフォントである。マックの初期デフォルト・フォントを"リミックス"したMonaco Punk、Geneva Punk、San Francisco Punk、New York Punk、London Punk、Chicago Punk、Los Angeles Punk、Athens Punk、京都パンク、大阪パンクというフォントのなかから、最終的にMonacoのリミックス・フォントをMonaco Familyとして発表することにしたのだそうだ。


 音のほうは、パンキッシュな鋭いギターとダンサブルで明るいポップな要素が違和感なく同居している。流行を取り入れているわけではないが、むしろ音に時代性を込めないことでタイムレスな作品に仕上がったのかもしれない。プラスチックスのサウンドは、このアルバムに収録されたライヴ音源からもわかるように、初期の録音はパンク色が非常に強く、一般的にテクノポップと称されるものとはだいぶ異なっている。もっと時代の空気感や、当時活動していた他のバンドとの関係性も見えやすい。そんなふうに時代背景とともに歩んできた音楽というものを、ここまで独創的に切り取れることに大変感服するし、だからこそこの『Monaco』でもフォーク・ミュージックの弾き語りカヴァーを4つ打ちにしてしまったり、普通では考えにくいことが起こっているのだ。


 誰もやらないことを誰よりも早くやるということが、常にグラフィック・デザイナーとして、ミュージシャンとして、本人の言葉を借りれば"レールを敷いている"、つまりあとから皆が真似してくれるように道を作るという氏のやり方であり考え方である。"スタイルを作るのが仕事だ"と以前インタヴューで語っていたことがあるのだが、それはプラスチックスのライヴでテレビを積み上げて映像を取り入れることでもあり、CDではなくデータをアート作品として販売することでもあり、一貫して昔から変わっていない価値観なのだろう。だから、USBというリリース形態でも、或いは音楽的な部分でも、誰かがそれを受け継いで次に繋いでいってくれればいいと思う。



(吉川裕里子)



【編集部注】『Monaco』はオフィシャル・サイト内のオンライン・ストア にて購入できます。


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