may.e『私生活』(Self Released)

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 複雑なアレンジ、忙しない転調、言葉が多すぎる歌詞。これらを揃えた音楽、強いて形容すれば "過剰な音楽"とでも言えばいいのか、最近いろんなアルバムなりEPを聴いていると、そういう作品に出逢うことが多くなった。"熱いなあ"とか、"情報量すげえ"とか、それはそれで興味深いと思うこともよくある。


 しかし、そればかりではさすがに疲れる。これまた強いて形容するならば、"退屈を楽しむような音楽"も必要だ。平凡な日常における小さな一幕を切りとり、そこにほんの少しユーモアを注いだ音楽。例を挙げると、フィッシュマンズ『空中キャンプ』のような・・・。このアルバムは、目の前に広がる日常を拡張し、退屈の面白さを教えてくれる。そして、《目的は何もしないでいること》(※1)と歌いながらも、そう歌えてしまうささやかな芯の強さもある。こうした作品に出逢うと、今まで以上に他者を好きになれたり、些細な出来事で笑える視野の広さを得られるのだから、ほんと不思議なものだ。


 may.eのセカンド・アルバム『私生活』も、そんな作品のひとつだと言える。may.eは、今年5月にファースト・アルバム『Mattiola』をリリースし、日本のインディー・ミュージック・シーンで話題を集めた女性シンガーソングライター。彼女の歌は平易な言葉で紡がれているが、そうして描かれる世界観は喜怒哀楽に収まらない感情豊かなもので、懐かしさと新鮮な空気が同居している。慎ましさと強さを滲ませる歌声も魅力のひとつ。その歌声は、先日おこなわれたTOKIO通信というイベントでライヴを披露した際も輝いていた。


 また、歌詞が全編英語で書かれていた『Mattiola』とは違い、『私生活』の歌詞は全編日本語である。それゆえ荒井由美に通じる巧みな言葉選びと語感の心地よさが際立っている。『Mattiola』と『私生活』、それぞれ異なる魅力を持つが、彼女の才能が明確に浮かび上がるという点だけを見れば、『私生活』のほうが勝ると思う。


 そして『私生活』を聴いて目につくのは、仄かに漂う退廃的雰囲気だ。それは『Mattiola』のドリーミーな音像とは違い、いささかトリッピーなものに筆者は見える。感情移入できる日常の匂いを醸す一方で、その日常から滑り落ちそうな危うさもちらつくのだ。それが顕著に表れているのは、2曲目の「おちた生活」。「おちた生活」のサウンドスケープに身を任せていると、意識が解体され惚けてしまうような気持ちよさに襲われる。


 『私生活』は基本的に、良いメロディーと良い曲、そして美しい語感を持つ言葉があるという、いわば真っ当なポップ・ソング集だ。とはいえ、よくよく聴き入ってみると、日常に潜む非日常、それこそ「日常を拡張」するための扉があることに気づく。感情の機微や他人の仕草といった、一見意味がないことをいつもとは違う角度から捉える視点、と言っていいかもしれない。そういった視点が『私生活』にはたくさんある。ゆえにこの作品を聴くと、目の前の景色がガラリと変わるのだ。



(近藤真弥)




※1 : フィッシュマンズ『空中キャンプ』に収録の「すばらしくて NICE CHOICE」の歌詞より引用。



【編集部注】『私生活』のデジタル版はこちらからダウンロードできます。

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