BURIAL「Rival Dealer」(Hyperdub / Beat)

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 映画『Vanishing Point』(1971年)の主人公コワルスキーはある日、仕事で白のダッジ・チャレンジャーを陸送していたが、その際にスピード違反をして警官に止まるよう警告されてしまう。しかし彼は警告を無視し、ハイウェイを疾走し続けた。その姿にラジオDJのスーパー・ソウルは感化され、多くの人たちがコワルスキーに対して応援の意を示すようになる。それでもコワルスキーは孤独だった。疾走を続ける彼には誰も近づけず、ゆえに彼を理解する者もいなかった。


 筆者はブリアルの作品を聴くたびに、コワルスキーのことを想い出してしまう。例えば、インタヴューをほとんど受けずライヴも一切やらないというブリアルの寡黙さに、これまた寡黙なコワルスキーをだふらせてしまったり。それに孤独なところも相通ずる。なんとなく、ブリアルとコワルスキーは似ていると思う。


 意外に思われるかもしれないが、ブリアルはポスト・ダブステップを代表するアーティストでありながら、DJライクではないプロダクションが際立つ作品を多数生み出し、クラブ・シーンとは一定の距離を置いてきた。その距離感を維持することでブリアルは様々なレッテルや解釈から逃れ、だからこそ "ダブステップ" という言葉が過去になっても、ブリアルの作品は孤高の輝きと存在感を放っている。


 そんなブリアルの最新EPである本作「Rival Dealer」は、ブリアルをもってしても "時代" や "潮流" から逃れることは難しいという事実を私たちに突きつけている。まず1曲目の「Rival Dealer」は、躍動感あふれるジャングル・ビート、ハード・ミニマルに通じる4つ打ち、そして静謐なアンビエントなどで構成された組曲だが、ブリアルにしては珍しく迎合的なのが気になる。


 2013年はジャングル復興が大きな話題のひとつだった。スペシャル・リクエスト『Soul Music』がジャングル復興の象徴として受け入れられ、さらにDJラシャドが『Double Cup』でジュークにジャングルを溶け込ませたことからもわかるように、その盛り上がりは強い影響力を持っていた。また今年は、イギリスのハード・ミニマル新世代シフテッドとヴェントレスによるレーベル《Avian》が注目を浴び、そしてクラウズはジャングル、ハード・ミニマル、インダストリアルが交雑したアルバム『Ghost Systems Rave』を発表するなど、ハード・ミニマル復権の気運が窺える年でもあった。こうした動きに「Rival Dealer」は接近している。


 80sエレ・ポップで聴けそうなビートが刻まれる2曲目「Hiders」、それから長大なダウンテンポ・トラックに仕上がった3曲目「Come Down To Us」も、シーンや潮流を横目に独自のサウンドを築き上げようとする気概は薄い。全3曲とも良質なトラックであることは確かだが、長年ブリアルの作品に接してきたリスナーのなかには違和感を抱く者もいるはずだ。本作におけるブリアルは、流行に馴染むことで私たちの予想を上回り、裏切っている。


 そういった意味で本作は、"予想を上回る"という点ではこれまで通りだ。しかしその方法については賛否両論を呼ぶ可能性がある。もっと言えば、ブリアルはアンダーグラウンドにこだわるのをやめ、レッテルやジャンルだけでなく、自身にまとわりつくイメージからも逃れようと試みているのではないか? ということ。このままブリアルは逃げ続けるのか、それとも・・・。


 ちなみにコワルスキーは、彼を止めるために警察が設置したバリケードに最高速で突っ込み、その命を散らせた。



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