RECONDITE『Hinterland』(Ghostly International)

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 昨年リリースしたアルバム『On Acid』ではアシッド・サウンドを追求し、かと思えば、今年ダブステップ以降のベース・ミュージックとベルリン・テクノが交わるEP「EC10」を発表するなど、実に幅広い音楽性を持つレコンダイト。音楽活動を始める前は理学療法士として働いていたが、スーパーピッチャーのミックスCDを聴いたことがキッカケで音楽制作にのめり込んだらしい。


 そんな彼が作り上げる音楽は、作品ごとに違いはあるものの、基本的には曖昧ながらも不思議と惹きつけられるメロディーが常に存在している。豊かで広がりのあるサウンドスケープも特徴のひとつで、ヘッドホンで聴いていると、的確なパンニングと磨き上げられた音粒のクオリティーに驚かされる。DJ活動は一切しないというテクノ・シーンでは珍しいタイプだが、多くのDJがスピンするだけあってフロアで映える曲も多い。


 そうした彼の音楽にある魅力は、本作『Hinterland』でも健在だ。フィールド・レコーディングした音を加工して使用する手法はミュージック・コンクレートに通じ、ひややかながらも温もりあるサウンドに4つ打ちのビートが絡むさまは、優美かつ官能的だ。腰を振らせる肉感性はないものの、そのかわり心を飛ばすマインド・ミュージックとしてのダンス・ミュージック、言ってみれば"チル"なトラック群が本作には収められている。


 また、ストイックな抑制美も印象的。音の抜き差しによって起伏を作りだす巧みなプロダクションは、聴き手を徐々に高ぶらせながらも完全には昇天させず、それはさながら心地よい愛撫をずっと楽しんでいるかのようだ。先に"官能的"と書いたが、本作には健全な彼のライフスタイルからは想像できない粘着質な狂気が宿っている。そしてその狂気は、聴き手の心を少しずつ解きほぐし、五感を支配する。


 普段の生活で溜まった欲求を音楽にして発散するアーティストは多いが、あまり酒を飲まずドラッグもやらないというレコンダイトも、そのひとりなのは間違いない。ただ、レコンダイトが他の多勢と異なるのは、自身と作品の間にかなりの差異があるということ。例えば、多くの辛い経験を持つパッション・ピットマイケル・アンジェラコスが、自身の作品では強迫的にハッピーなポップ・ソングを鳴らすように、作品とパーソナリティーは必ずしも一致するわけではない。


 音楽を作る理由は人それぞれだが、もしかするとレコンダイトやマイケルにとって"音楽を作る"という行為は、一種のセラピーなのかもしれない。それゆえレコンダイトやマイケルの音楽には、多くの感情にまみれながらも力強いピュアな側面がある。いわば正直なのだ。


 表現者には、多くの人の前で自らを曝け出すことが求められ、ゆえに正直さが必要となる。そういった意味でレコンダイトは真の表現者だ。彼の音楽を前にすれば、生半可な自己顕示欲を見せつけるだけの音楽など跪くのみ。



(近藤真弥)



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