People In The Box『Weather Report』(日本クラウン)

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 People In The Boxのニューアルバム『Weather Report』は、彼らがまさに次のフェーズに入ったことを確信させる一枚だ。サウンド面でのアプローチはアコースティック・アレンジを散りばめた前作『Ave Materia』に近い。アコースティック・ギターが印象的に用いられ、People In The Boxの特徴とされる変拍子や急展開といった要素は薄くなっている。他方、耳に馴染みやすいながらも細部にノイズ、水音、民族楽器などの実験的要素を盛り込んでおり、表現の幅を広げたように思える。


 歌詞に着目してみると、これも『Ave Materia』以降の言葉という印象を抱く。そもそも従来のPeople In The Boxの歌詞はパラレル・ワールドの中で展開される物語であり、首尾一貫したコンセプチュアルな作品が多かった。あくまでそれらは現実世界に訴えかけたり、ましてや聴き手に希望やら勇気やらを与えるような応援歌でもなく、People In The Boxが紡ぐ世界の中でのみ始まり、終わっていく、または続いていく物語であった。もちろん聴き手によってはそれらの隠喩を取り去って前述したような解釈を加える人もいるかもしれないが、一見してそういった意図を積極的に示すようなスタンスを、以前のPeople In The Boxは持っていなかった。


 しかし、前作『Ave Materia』は違った。今まで奥深くに隠れていた波多野裕文の意思/主張がはっきりと発現された、彼らにとって分岐点となる決定的な一枚になった。開かれた意思が感じられつつも自らの全てを曝け出すという行為に至ったのではなく、相互的に歩み寄っていこうとしたのが前作『Ave Materia』だとしたら、とにかくやりたいことをやり、自らの全てを曝け出したらどういう化学反応が起きるのか実験したのが『Weather Report』だろう。これまでの「閉じた世界のPeople In The Box」とは全く別の、「開かれた世界のPeople In The Box」。


《水彩画に描いた曇り空を ベランダのホースでもって 洗い落としてみれば そこにはなにがある? ただのぬれた紙がある》(「空地」)


 水彩画の曇り空を洗い流しても、太陽は出てこない。その奥に隠された太陽を伝えたいから、彼らは最初からキャンバスに太陽を描くことを選んだ。彼らの変化することに対する躊躇の無さには毎回驚かされる。


 今作は70分超え21トラックの意欲的大作。加えて21トラックは分割されておらず、全て1トラックに収められている。曲単位で買うのが当たり前となっている配信世代へのアンチテーゼか、はたまた21トラック全てこの流れで聴いてひとつの作品だというアルバムの形態にこだわった結果なのか。そのどちらとも受け取ることはできるが、やりたいことを詰め込んで好き勝手やっているというだけでなく、それらに正しい形を与えること。そこに作り手としての責任を込めたのだと解釈したい。70分21トラックに一番相応しい形は1トラックにまとめることだと判断したのだろう。僕らも自由にやったから、お茶でも淹れながら肩肘張らず自由に聴いてくれ。察するにそんなところだろうか。


 ジャケットに描かれているように、彼らは開きかけた目の中に入り込んだ光を受け入れ、新しい世界への扉に手をかけた。変化し続けるPeople In The Boxの音楽は、これからも我々の期待をいい意味で裏切り、驚かせてくれることだろう。



(竹島絵奈)

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