OMAR SOULEYMAN『Wenu Wenu』(Ribbon / Hostess)

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 シリアのみならず、中東地域には注視せざるを得ない多くのニュースが近年はよぎるが、音楽面を考えてみると、アラビアン・ポップスやアラビック・ラウンジなどは日本でも少しずつ認知されてはいるものの、まだまだ一般的なイメージとしてはパーカッションの響きや単旋律、7音音階、中立音程といった理論的なターム等がかろうじて知られているくらいかもしれない。また、西洋音楽に援用された形での大まかなエッセンスやベリーダンスに包含された形でのダブケという踊りは知っている程度だろうか。


 ダブケとは、ヨルダン、シリア、レバノンなどにみられるトラディショナルなライン・ダンスであり、その語源はシリア語で"足を踏み鳴らす"ことに依拠する。レストランやステージで互いに腕を組み、手を繋ぎ、軽やかにステップを踏み、歌い踊るもの。何らかの形で、ダブケはライヴ・パフォーマンスでもよく見受けられるのもあり、形式として伝わっていると感じられる。


 そのダブケを、現代の音楽に新しく組成させたオマール・ソウレイマンのアルバムである『Wenu Wenu』は、稀薄化される訳ではない伝統の強度をリプレゼントする。彼の名前は、ビョークの『Biophilia』から派生した"Crystalline Series"というリミックス・ワークで初めて知った人もいれば、トム・ヨークは自身のツイッターでも今作について「Dope !」と称賛を寄せているので、そこから追った人もいると思う。


 ただ、その奇妙なサウンドに目をつけたのは、多岐に渡るワールド・ミュージックを紹介するシアトルのレーベル《Sublime Frequencies》で、そこからのリリースも含め、シリアのダンス・ミュージックを刷新しダブケを世界に伝播させた彼のキャリアは目覚ましかった。当初はBPMを早くした奇矯なサウンド・メイク自体を愉しむ節があったものの、着実にライヴを重ね、作品のみならず、ワールド・ミュージック系のフェスではトリを務めるなど、多くのイベントで姿を見ることができた。


 但し、少し懸念だったのが、舞踏自体が結婚式など祝いの席のためのエンドレス、反復を是としているのもあり、ダイレクトに現場で受け取るトランシーさとは別種の、こうして録音されたサウンドは単調になりやすい向きがある。今作も、ニューヨークのブルックリンでフォーテットと制作を進めているという情報があった時点でそれは浮かんだが、結果としては曲数を絞り、オマール自身の従来の音楽性を洗練させたコンパクトな内容がひとまずは吉と出ている。


 耳に残るサイケデリックなシンセの音色が前面に押し出されながら、昨今のジャングル・リヴァイヴァルの機運ともシンクするように、踊るための音楽として世界中で愛聴されそうだが、録音作品としての意味も当然うかがえる。「Nahy」でのスペーシーなエレクトロ・チューンや、R&B調のうえで彼の歌声が朗々と響く「Mawal Jawar」、そしてリリックもサウンドと反語的にと言おうか、失恋や叙情的なものが散見され面白い。



(松浦達)

 

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