LOGOS『Cold Mission』(Keysound)

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 ロゴスのデビュー・アルバム『Cold Mission』についてまず目がいくのは、アルバム・タイトルだろう。往年のダンス・ミュージック・ファンはお気づきだと思うが、ドラムンベースの発展に多大な貢献を果たしたユニット、4ヒーローの別名義と同じなのだ。実際アルバム・タイトルには、4ヒーローへ向けたオマージュが込められているそうだ。


 ロゴスはロンドンを拠点に活動するアーティスト。これまでに「Medicate」「Kowloon EP」といった作品を発表してベース・ミュージック・シーンに受け入れられたものの、決して多作というわけではなく、正直目立つ存在ではなかった。それにしても大層な名前を掲げたものだ。そもそも"ロゴス"は、古典ギリシャ語で"理論" "思想" "意味"など、様々な含意を持つ言葉。ストア哲学や論理学をかじった者ならよく見かけたのではと思う。


 そんな言葉をアーティスト名にしたせい、かは知らないが、本作の音楽性は実に多彩である。ざっと思いつくだけでも、グライム、ドローン、インダストリアル、テクノ、ジャングルなどなど。そして、これらの要素が撹拌され生まれたのは、《Night Slugs》や《Fade To Mind》周辺のサウンドに通じるメタリックで硬質なベース・ミュージックだ。


 とはいえ、それらのサウンドと比較すれば、本作はいささか急進的に聞こえる。例えば《Night Slugs》からリリースされたジャム・シティーの『Classical Curves』は、ありえないタイミングで音が鳴る実験的ビートを打ち出していたが、同時にビートの反復性もかろうじて維持されており、ゆえに没入できる分かりやすさもあった。しかし本作のビートはお世辞にも聴き手に優しいとは言えない。むしろ聴き手にどこでリズムを取るのか選ばせる、言ってみれば能動性と想像力に依拠している。


 だが、そこが本作の面白い点なのだ。オープニング曲の「Ex 101」を例にしてみよう。この曲はチープなシンセ・サウンドで幕を開けるが、突如キックが鳴り響き、かと思えばリムショットの連打が交わるなど、とても忙しない曲。一定の間隔で刻まれるのはざらついたハイハットのみで、ほとんどの音はランダムに現れては消えるという有りさま。これではさすがに踊れないと思うところだが、注意深く聴きいってみると、確かに踊れるリズムを見いだせる。そういった意味でこの曲は、ブライアン・イーノが提唱したアンビエント・ミュージックの定義をベース・ミュージックの文脈で解釈している。


 こうした「Ex 101」のような曲で本作は占められ、それゆえ『Cold Mission』は聴き手の解釈、もっと言えば誤読を促す内容になっている。そのような作品から1曲でもダンスフロアでプレイされたらどうなるだろう。それぞれ自分のダンスを踊りはじめ、多様性あふれる新たな共有の形、普遍性、一般性が現れるかもしれない。様々な価値観、様々な人種が集いひとつの熱狂を生み出す。そんな可能性に本作は手を伸ばしている。


 ちなみに本作は、ロゴスいわく「海賊放送で流れていたグライムを懐かしむ気持ち」がコンセプトだそうだ。ダフト・パンクが『Random Access Memories』で70年代のソウルやディスコへの愛情を示せば、カット・コピーは『Free Your Mind』でセカンド・サマー・オブ・ラヴに対する憧憬を鳴らすなど、いわば過去を用いて未来を切り開こうとする動きが多いなか、ロゴスも同様の道を選んだということか。もしかすると、看過できないほどにノスタルジックの波は広がっているのかもしれない。もちろんそれをどう捉えるかはあなた次第だが、筆者はもう少し深く考えてみようと思う。



(近藤真弥)

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