くるり「Remember Me」(Victor)

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 1998年における日本の音楽シーンの一端、特にバンドの在り方を考えると、ある種の幸福な時期の残響を感じもする。L'Arc~en~CielやGLAYといったバンドがメガ・セールスをあげながらも、TRICERATOPS、GRAPEVINE、DRAGON ASHなど、今でも前線で活躍するバンドが芽吹きだしていたとともに、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTのようなガレージ、パブ・ロックでスイングさせるバンドが大規模な集客、人気を博していた。


 その1998年の終わり間際、10月に引っ掛かった形で、くるりは「東京」というシングルでデビューしたが、真っ青な空をバックに東京タワーが刻まれたジャケットに京都からのバンドということで、中心部、または東京という象徴性への文脈に対する距離感やオルタナティヴな在り方が顕れていた。


 スタイリッシュさとは遠いながらも、その頃には青森からスーパーカー、博多からナンバーガールといったバンドが出てきた趨勢を考えると、地方/中央の二分線が無くなり始める前夜ともいえ、ファスト風土化や大型モールの郊外への展開がじわじわと進み、景観の均質化が浸食してゆく2000年代とは、遠かった辺境やイマジネーションの最良たる部分を削っていったカオティックな穏やかさをおぼえもする。


「東京」という曲は、骨太で重厚なギター・ロックであり、青さと普遍性を昇華させながら、東京の街に出てきたこと、季節に敏感でいたいこと、なによりも君への想いが狂おしいまでに綴られている。サイケ、ブルーズ、尽きないジャム・セッションで埋め尽くされた京都のあちこちのライヴハウスと、主に大学生たちの息吹で呼応する熱気が渦巻く場からの「東京」は、くるりにとって身近な「君」のためのようで、この15年のあいだ追い求めてきた遠心力のある別の遠い誰かに対する何かだったのかもしれない。


 昨年の『坩堝の電圧』の折、新メンバー加入に伴う何度目かの新体制による疾走と、震災以降を考えての切実な希求たる想いは、これまでのパーマネント・メンバーであるメイン・ソングライター岸田繁、ベースとして支える佐藤征史、そしてトランペット、キーボード、コーラスで華を添えるファンファン、現在は脱退してしまったが、多くの影響を与え、今はソロ活動含め多角的に芽を拡げている吉田省念により、ユーモアと慈しみを描いていた。そう考えると、オマージュ、語呂遊びもあれば、震災、エネルギーの問題、沈痛な想いを抱えた曲までが並ぶ『坩堝の電圧』は、色とりどりなこれまでのくるりの来し方を詰め込んだメルクマールになったといえる。


 ただし、その"続き"として「Remember Me」が配信限定でリリースされ、今年初めの武道館公演においてくるりは、『坩堝の電圧』の過剰さと同時代性が均され、スクエアな在り方になったような気がする。


 その「Remember Me」は元来の配信版からストリングスが穏やかに響き、優しい言葉で奥行きのある風景を描くスケールの大きい、これまでのくるりのなかでもどっしりとした曲になっていたが、今回のフィジカル・リリースにあたり、『ワルツを踊れ』の主なレコーディング場所であるウィーンにて、フリップ・フィリップによるストリングス・アレンジが施され、新たな膨らみを持ったものになっている。


 そして、1998年から2013年の時間軸のなかで、くるりが常に視てきた景色の変節、刹那性と、相反する普遍性が組み込まれてもおり、「東京」から「Remember Me」までに出された曲群、アルバム群、多くのライヴ、主催の京都音楽博覧会の立ち上げまで入れると、感慨深さというよりも、その苛酷な過程にて自らをメタ的に、言祝ぐようなシングルかもしれない。くるりのための記念でもあるが、くるりからの混沌たる日本の音楽シーンに向けた祈念的な何かを込めた、というような。


《君が素敵だった事 ちょっと想い出してみようかな》

(「東京」)


《すべては始まり 終わる頃には 気付いてよ 気付いたら 産まれた場所から 歩き出せ》

(「Remember Me」)


 産まれた場所からもう一度歩きはじめること、そのときに想い出す素敵は君かもしれない。


 15年前とは何もかも変わってしまったように、今はそんな変化を未来的な何かへと仮託し、種を蒔く。想い出せることが多いほど悲しくなるのは事実だが、記憶のなかに多くのことがある分だけ自由にもなれる。


《Do you remember meいつか教えてよ》

(「Remember Me」)


 くるりは常に、"いつか"に問いを置きながら、禍福が糾える瀬でもどこか音楽のなかで聴き手が想像力を駆使し、日常内に響き、寄り添えるような、そんな可能性を確かめてきたバンドだった気がする。併せて収められた、エレガントなシャンソン風の小品「Time」は、シングル総体としての立体性をもたらしている。


《連れていってよ どこまでも 君と繋がっていたい どうだろう 泣かないで 石畳 雨のように》

(「Time」)


 昨今、アマリア・ロドリゲスやマリーザといったファドへの深い思慕の念を示し、ジェイク・バグのロックンロールに痺れ、フアナ・モリーナに魅かれ、日本語のヒップホップも好きだという岸田繁のモードは既に次にいっているのもあり、それらの感覚は今後のくるりとして還元されることだろうし、まだまだキャリアを再更新してゆくことだろう。


 そのためにも、「Remember Me」は何かとあった2013年を経て、ここでしっかり刻まれないといけなかった宿命を予め持った曲だったのかもしれない。



(松浦達)

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