PRINCE OF DENMARK『The Body』(Forum)

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 ドイツの《Giegling》は、テクノ・シーンのなかでも一際アンダーグラウンド色を強く打ち出しているが、その《Giegling》の姉妹レーベル《Forum》が9月にリリースした『The Body』というアルバム、これが実に素晴らしい。じわじわと変化していく音像はミニマル・ミュージックの影響を滲ませ、淡々と刻まれる4つ打ちは冷徹に鳴り響く。一定のリズムを崩さず、音色の変化で起伏を作る手法はマルセル・デットマンといった《Ostgut Ton》周辺のサウンドに通じるが、本作はそれらのサウンドよりも起伏が抑えられ、トラックによってはリズムや音色がほぼ変わらないまま終わる、なんてことも珍しくない。


 正直、そんな本作を聴いていると気が狂いそうになるが、それでも繰り返し再生させるだけの妖艶な雰囲気を纏っており、なかなかの曲者。この雰囲気はミラーボールの下で脚光を浴びることはないかもしれないが、その代わり本作には、光も届かない地下深くで踊り狂う者たちを満足させるサディスティックなグルーヴがある。こうした作風は、昨今盛り上がりを見せるインダストリアル系の音とも共振する。


 ちなみに本作を作り上げたのは、プリンス・オブ・デンマークという名のアーティスト。別名義のトラウムプリンズでも、《Kann》やセルフ・レーベルの《Traumprinz》などからリリースを重ねている。日本ではテクノ系のパーティーでスピンされることが多いものの、その素性は謎に包まれており、テクノ好きのあいだでも知る人ぞ知る存在。神秘性を生み出しづらいSNS全盛の現在において、このミステリアスな側面もプリンス・オブ・デンマークの魅力なのは間違いなく、ゆえにカルト的な人気を得ているというのも頷ける。やはり刺激的で面白い音楽は、上から降ってくるのではない。下(アンダーグラウンド)から這い上がってくるのだ。


 ダブステップ以降、非4つ打ち系のトラックがフロアを支配していた。ヴィジョニストやフィルター・ドレッドといった、テクノ/ハウスが偏在する今を変革し得るアーティストも出てきている。しかし一方で、ブラック・ジャズ・コンソーティアムがテン年代のUSハウス・シーンを盛り上げ、イギリスではディスクロージャーがファースト・アルバム『Settle』を全英アルバム・チャート1位に送り込むなど、4つ打ち寄りの音を鳴らすアーティストが注目されているのも事実である。まあ、プリンス・オブ・デンマークがそうした潮流を気にするとは思えないが、特筆すべき音を鳴らしているのは確かだ。


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