KELELA『Cut 4 Me』(Fade To Mind)

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 2002年、LCDサウンドシステムのジェームズ・マーフィーは、「Losing My Edge」でカンの最初のライヴを観たと歌い、さらにはラリー・レヴァンと共にパラダイス・ガレージのDJブースに入り、1988年にイビザのビーチで裸のまま目覚めたという想い出まで告白している。もちろんこれらの出来事は、ジェームズの実体験ではないだろう(彼は1970年生まれだ)。とはいえ「Losing My Edge」が、ネットを介してあらゆる時代の文化にアクセスできる、いわば誰もが神様気分で全能感に浸れる世界の到来を予言していたのは間違いない。


 ケレラのファースト・アルバム『Cut 4 Me』は、「Losing My Edge」から止まることなく発展してきた全能感を宿した作品という意味で、非常に面白い内容だ。ヘヴィーなインダストリアル・ビートが打ち込まれる「Enemy」、そしてジュークの影響が窺える「Something Else」などのトラック群には、ダブステップ以降のベース・ミュージックを網羅したかのような彩度がある。同時にアリーヤ「One In A Million」、それからR・ケリー「You Remind Me Of Something」といった90年代R&Bの甘美さも備え、ケレラの歌声は"ポスト・アリーヤ"と言われてもおかしくない魅力を放っている。


 しかしFACTの記事によると、ケレラはマライア・キャリーを熱心に聴いていたそうで、もしかするとケレラの持つR&B要素は、マライアが1997年に発表した「Honey」をキッカケとする、メインストリームになって以降のR&Bを吸収して形成されたのかもしれない。そう考えると本作は過去、現在、そして未来の文脈が結合した作品だと言える。


 また、ケレラの横顔が印象的なジャケットも興味深い。《Fade To Mind》のアートワークは、もの派の作品に通じる"そこにある"という圧倒的事実を突きつけるようなインパクトに、時折パピエ・コレ的なコラージュ感覚が紛れ込む(キングダム 『Vertical XL』のジャケットが象徴的だ)。こうした感性はさながら創造主みたいだが、《Fade To Mind》は本作でケレラという歌姫を創造したのかもしれない。先鋭的なベース・ミュージックを生み出しつづけることで得た影響力を拡大するために。



(近藤真弥)




【編集部注】『Cut 4 Me』は《Fade To Mind》のサイトでダウンロードできます。

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