住所不定無職『GOLD FUTURE BASIC,』(DECKREC / UK.PROJECT)

|
住所不定無職『GOLD FUTURE BASIC,』.jpg

 あらゆるジャンルが混在している! と絶賛するのは、そうした音楽で溢れている現在においては褒め言葉にならないし、じゃあ多様な音楽的要素を掛け合わせるセンス! と称賛すればいいのかといえば、そのセンスを持つバンドやアーティストが多くいる今では、特色となるものではなくなった。では、宮藤官九郎が脚本を務めた『あまちゃん』、それから古沢良太の『リーガルハイ』みたいに、フックとなる小ネタをちりばめた仕掛けの多さに驚くべきか? っていうと、そうでもない(そういえば、『リーガルハイ』の第1話ではさっそく主演の堺雅人が出演していた『半沢直樹』ネタがあって面白かったですね)。


 もちろん、フル・アルバムとしては『ベイビー! キミのビートルズはボク!!!』以来約3年ぶりとなる、住所不定無職の最新作『GOLD FUTURE BASIC,』にはそうした混在、センス、フックとなる小ネタがすべてあり、その点だけをピックアップして"現代のポップ・ミュージック"と評価することもできなくはない。でも、それだけが本作を名盤たらしめる要因じゃないように聞こえる。確かに「IN DA GOLD,」は、トラブル・ファンクなどのいわゆるゴーゴーに、初期のモーニング娘。に近いアイドル・ポップの要素を滲ませ、歌詞も過去に対する敬愛を示すものだ。さらに「CRIMINAL B.P.M」はテディー・ペンダーグラスの匂いを漂わせ、そして《最終回のようなロケーションで君を待つ》という一節が登場する「月曜21時に恋してる」は、フジテレビの"月9"的な世界観を作り上げている。


 だが、それはあくまで本作を彩る一要素であって、ましてや住所不定無職が時代の流れに乗るため折衷性を求めたわけでもない。初期の頃はガレージ・ロックを鳴らすキュートなバンドではあったけど、フルヴォリューム・シングル「JAKAJAAAAAN!!!!!」以降は、豊富な引き出しが可能にする高い音楽的彩度を際立たせていた。そもそも、住所不定無職というバンド名が、細野晴臣のアルバム『HOSONO HOUSE』に収められた「住所不定無職低収入」からの引用ぽいし、もっと言えば、「IN DA GOLD,」には《ピチカートするよこの心臓》なんて一節も出てくるんだけど、この一節の元ネタと思われるピチカート・ファイヴは、『HOSONO HOUSE』収録の「パーティー」をカヴァーしてるっていう、ちょっとした循環が本作にはあるんですよね。


 だからこそ、本作を"住所不定無職が突然変異して生まれた作品"とするのもピンと来ないなと。堂島孝平、澤部渡(スカート)、AxSxE(NATSUMEN)がプロデューサーとして参加、そして今年1月には新メンバー℃-want you!(シ・オンチュ)の加入によってバンドが4人体制になったりと、本作に関するいろんな外的要因があるのは事実だ。しかし、多くの人が楽しめる良い曲(言ってしまえば売れる曲)を作ることに腐心してきた住所不定無職の根本は、本作でも相変わらず。


 そう考えると、変わったのは時代のほうであり、もっと言えば住所不定無職に時代が追いついたと言えるのかもしれない。例えば森は生きているカインドネスの、さまざまな要素を撹拌させつつも目地のない音楽は、音楽自体に目地がないというよりも、その目地に時代、つまり我々がやっと慣れてきたからこそ、目地がないと感じるようになったのでは? それに先述の折衷性という点だけでいえば、イアン・ピールに「特徴的な鳥の鳴き声は、グレアムのマーティン・デニーやアーサー・ライマンといった50年代のエキゾチカ音楽への愛をユニークにカタチにしたものだ」(※1)と評されたテクノ・クラシック「Pacific」で有名な808ステイトなど、過去にも折衷性を発揮したバンドやアーティストはたくさんいる。2013年である現在、808ステイトの『90』や『ex:el』を聴いたらどう感じるだろう? これらのアルバムで披露される多様な音楽に、目地を見いだすことはできないはずだ。


 結局のところ、リスナーとはとても移り気な存在であり、人気があるとされている音楽の大半は、そうした移り気にジャストなタイミングで共振できる、いわば幸運を持っていたのだろう。時代ごとに"面白さ"や"良さ"の中身は変わっていくのだし、"あの頃の音楽が一番好きだ"という愛情はあっても、"あの頃の音楽が一番良かった"とする断定など、ありはしない。このことを、懐古ではなく愛情でもって"過去"を現在に浮かび上がらせる本作は教えてくれる。


 そういった意味で本作は、2013年という"今"と住所不定無職が元々備えていた根本が見事に交わっており、ゆえに多くの聴き手の心に刻まれるであろう名盤なのだ。こういう面白いことがあるから、ポップ・ミュージックを聴くのはやめられないんですよね。なのでポップ・ミュージック好き、いや、音楽好きのみなさんは本作を一聴すべきでしょう。繰り返しになりますが名盤です。これは売れなきゃおかしい作品ですよ、ほんと。



(近藤真弥)




※1 : イアン・ピールによる、808ステイト『90(デラックス・エディション)』のライナーノーツから引用。

retweet