18+『MIXTAP3』(Self Released)

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 ミュージック・コンクレートが誕生してから60年以上も経つ。フランスの作曲家ピエール・シェフェールによって生み出されたこのジャンルは、都市にあふれる騒音や自然界の音などを録り、それらを加工することで音楽を作り上げるというもの。こうしたミュージック・コンクレートの手法は多くのジャンルで応用されており、そのなかにはテクノやヒップホップといった音楽も含まれる。今でもミュージック・コンクレートの影響は至るところで見られ、さらにはテクノロジーの進化もあり、誰もがミュージック・コンクレートに触れられるようになった。例えばスマートフォンのレコーダーアプリで適当に音を録り、その音をフリーのDAWソフトに移してから曲にする、なんてことも一種のミュージック・コンクレートである。そんな現在なのだから、グライムスローレル・ヘイローといったポスト・インターネット世代が多くの記号で彩られた音楽を鳴らすのは必然だったのかもしれない。


 ロサンゼルスを拠点に活動する男女2人組の18+も、そうしたポスト・インターネット世代だと言える。それはサウンドにも表れており、彼らが過去にリリースした『M1xtape』『Mixta2e』というふたつのミックス・テープは、ヒップホップ、R&B、ダブステップ、ドローンなどがミニマルなサウンドスケープのなかで交わる内容となっている。元ネタも興味深いものが多く、テトリスのBGMとしても有名なロシア民謡「コロブチカ」のメロディーを引用した「Whistle」(『M1xtape』に収録)は、彼らの奔放な遊び心が滲み出ている。


 本作でもその遊び心は健在で、「Crow」ではカラスの鳴き声に合わせて歌を紡ぎ、「Deadbody」はプッシャー・T「Nosetalgia」におけるケンドリック・ラマーのパートが連呼される小品、そして「Fecund」の最後で奏でられるフレーズは、なんと高橋洋子の「残酷な天使のテーゼ」、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』のオープニング曲である。


 ビートも今まで以上に贅肉が削ぎ落とされ、シンプルの極地に達したトラック群が収められている。それゆえ2人の歌声が際立ち、その歌声も甘美、妖艶、優しさなど、さまざまな表情を見せる。聴き手を微睡みにいざなうスロウなグルーヴはポーティスヘッドやマッシヴ・アタックに通じるもので、ドラッギーな中毒性を孕んでいる。


 こういった具合に本作は、音楽のみならずそれ以外の要素もネタにしており、ゆえに多角的考察ができる作品となっている。とはいえ、特定の要素を突出させるわけでもなく、あらゆる要素をフラットな状態で示すだけなのが少し厄介だ。ジャケットにも2人の(と思われる)白いシルエットという高い匿名性を持つデザインが選ばれ、"主張"や"個"を抑制している。


 アニメ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』のなかで草薙素子は、「すべてが同じ色に染まっていく」と、情報の並列化によって"個"が失われることを危惧した。しかし一方で草薙は、「私は情報の並列化の果てに個を取り戻すためのひとつの可能性」を「好奇心」に見いだしている。もしかすると本作は、その「好奇心」が聴き手によってもたらされることを望んでいるのではないか? だからこそ18+は匿名性を維持し、聴き手の主観的能動性を促すような振る舞いを続ける。だとすると、ジャケットの白いシルエットに収まるべきは聴き手の想像力なのかもしれない。この想像力によって本作に情報が、考察が、解釈が次々と付随され、それでようやく"ひとつのポップ・ミュージック"になるという在り方。


 インターネットが一般化して以降のポップ・ミュージックにとって、音楽そのもの以外の外縁的要素は極めて重要だと、ミステリアスな本作は私たちに訴えかけている。



(近藤真弥)



【編集部注】『MIXTAP3』は18+のサイトからダウンロードできます。

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