VARIOUS ARTISTS「夏の終わり EP」(BON ODORI RECORDS)

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 蒸し暑い外の日差しを避けるように、エアコンの送風が心地良い。夏の真っ只中の8月18日、日本のネット・レーベル《Ano(t)raks》の初イベントが下北沢モナレコーズで開催された。レーベル発足以降、数多くの日本の新進気鋭のインディー・バンドをフックアップしてきたこのレーベルが、遂に、生の現場に乗り出した。


 去年東京のインディー・バンド、モスクワ・クラブの主導で編纂されたコンピレーション『Ç86』を聴いたとき、その若く瑞々しいサウンドの裏に潜む「これからは俺たちの時代だ」という滾る野心に共感を超えた凄まじい衝撃を感じた。少し経って《Ano(t)raks》がバトンを受け取るように『Soon V.A.』をリリース。そのスタンスは海を渡って海外からも評価を得た。その後《Ano(t)raks》は順調に成長し発足から一年余りで、すでに日本を代表するネット・レーベルになったと言っても過言ではない。


 いま、音楽をはじめとした表現一般は、インターネットにより言葉や土地の壁を悠々と飛び越え世界に伝わる。それが当たり前となって久しい2013年の我々に必要なのは、やる気のただ一つに尽きる。衝動。一念発起。誰もが嫌いなこの精神論じみた言葉が、いま何よりも重要なキーワードなのだ。何か面白いことをやれば必ず誰かが見つけてくれる。技術とかセンスなんてあとからついてくるんだ、やってしまえ!


 それはそうと、初期衝動の塊のようなレーベル《BON ODORI RECORDS》が公開したコンピレーション『夏の終わり EP』は、夏の終わりと同時にネットリリース時代の本格的な幕開けを告げている。オフィシャルサイトのレーベル紹介には、こうある。


「BON ODORI RECORDSとは高校生が適当に立ち上げたTwitter発祥のマルチインターネットレーベルです イラスト、音楽、映像、基本なんでもありです こういうことがしてみたい!自分の作品を公開して欲しい!という方はBON ODORI RECORDSまでご連絡ください」


 何か発言すれば非難を浴び炎上するリスクを孕んだ、周りと歩調を合わせて全員マエナラエのこの監視社会において、《BON ODORI RECORDS》の素晴らしさとは、一歩前へ踏み出そうとする溢れ出る表現欲求の発露への絶対的な信頼と肯定にある。何かを作りたい、叫びたい、世に問いたい、という剥き出しの強いリビドーを押さえ切れない人がいるのなら、来い、と。その証拠にサイトの「Art」項には、『夏の終わり EP』の清涼感とは180度異なるエログロ作品も掲載されている。『夏の終わり EP』で興味を持ち、爽やか系を期待して訪れた人は面食らうだろう。


『夏の終わり EP』の音楽性はコンピレーションなので様々だが、『Soon V.A.』期の《Ano(t)raks》を彷彿とさせるトゥイーやシューゲイザー、ネオアコといったインディー・ポップやヴォーカロイド、フォーキーな作品など、そのどれもが若くて眩しい。なんというか、みんな本当に純粋でストレートなポップスなのだ!


 少し驚いたのはmagaoによる4曲目の「夏色ディストーシャン」。ヴォーカロイドは詳しくないが、この曲のようにヴォーカロイドをギター・ロックに落とし込むと意外にインディー然としたサウンドにぴったりとハマるというのは発見だった。日本の宅録の象徴として、ヴォーカロイド・シーンをこういった形で取り込むのは個人的には"もっとやれ"だ。『夏の終わり EP』を聴いたほとんどの男性が恋をしたであろうrasolpaによる6曲目「君が見える夏休み」、そしてあの8月18日にモナレコーズで素晴らしいライブを披露していたTourist & Soundtracksによる最後の「みなとまち」を聴くと、ああ終わってしまったのか、夏が・・・となれる。アルバムを締めくくるのは、波の音とカモメの鳴き声だ。


《Ano(t)raks》が初のイベントを行い、新たな道を切り開きだした矢先にこのような動きが現れたのは面白い。ceroミツメといった東京インディーの盛り上がり、絶賛で迎えられた森は生きているのファースト・アルバム、SNSでの容易なコネクション作り、そして有り難いことに、こういったインディー・シーンを支えるモナレコーズやココナッツディスク吉祥寺店、Jet Set、サンレインレコーズなどのレコード店があり、それらが皆、手を繋いでシーンを作り盛り上げている。さあ、叫びたい奴は叫べ!



(荻原梓)



【編集部注】「夏の終わり EP」は《BON ODORI RECORDS》のバンドキャンプでダウンロードできます。

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