Ropes「Usurebi」(THROAT RECORDS)

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「生きていてよかった」、そんな言葉が口をついてでた。心が洗われるとはまさにこのことだ。戸高賢史のギター・エフェクトがアチコの声を増幅し丁寧に包み込む。2人だけのユニット、そして必要十分、それがRopes。大阪の《FLAKE RECORDS》からの両A面7インチ「SLOW/LAST DAY」を経てのミニ・アルバム「Usurebi」は、奈良のレーベル《THROAT RECORDS》から。2人はそれぞれ長い音楽歴のあるミュージシャンで、所属レーベル等も興味は尽きないが、まずそれよりも音を聴いていきたい。


 全ての作詞はアチコが手がけ、作曲は3曲が戸高、1曲がアチコ、残り1曲がRopes名義となっている。1曲目、遠くで列車の走る音から始まる「メトロ」。幻想的なギター・エフェクトに相まって、夕暮れ、缶蹴りや鬼ごっこをして遊んだ幼い頃の記憶、おしゃまなあの娘の呼ぶ声が聞こえてきそうだ。2曲目のタイトル・チューン「Usurebi」は本作中、最も現在に近い地点で鳴らされているように思う。戸高のギターも素で鳴らされている。アチコのヴォーカルは痛みと後悔を帯びる。怯えて、焦がれて、嘘ついた、といったフレーズがいちいち刺さる。この曲の作曲のみアチコ単独となっている。次曲「意味」で、アチコの声を支え浮遊するギターに耳をすませば、若かったあの頃に帰れる気がする。しだいに高みに昇っていく。この曲の作曲はRopes名義。そして4曲目、鍵盤とノスタルジックなギター・エフェクトが降り積もる雪をイメージさせる「snow」。雪はすべてを浄化していくかのよう。歌われる恋も、この世界で生きるための様々な厄介ごとさえも。その流れを汲んだ最終曲パノラマ、ひとつひとつ湖面に落ちる水滴のようなギターに、私はボートをこぐ櫂を思い描く。星へ向かう舟。レディオヘッドの「Pyramid Song」を連想する。Nothing to fear(怖れるものは何もなかった)。


《THROAT RECORDS》を運営する奈良出身、在住のオルタナティヴ・ロック・バンドLOSTAGEの音楽性は、戸高の所属するART-SCHOOLにも通じる、グランジを通過した激しいギター・サウンドだ。実際、両バンドは尊敬し合っている。ヴォーカルのアチコはon button downでの活動や石橋英子とのコラボレーションに加え、ART-SCHOOLのギター2人、Downyのリズム隊2人の計5人で結成したKARENのヴォーカルとして多岐に活動。そのKAREN解散後、アチコと戸高のみで新たに組んだのがこのRopesだ。戸高はPhantom FXという独自のエフェクター・ブランドを立ち上げている。本作のクレジットはアチコがヴォーカルと鍵盤、戸髙がギターとその他となっているが、おそらくほとんどの音はギターで創られていると想像する。不思議な侘び寂びを感じさせるエフェクト。


 ART-SCHOOL加入直後の頃、戸高賢史に聞いたことがある。元々自身のバンドでヴォーカルもとっていたという彼だ。ソロはしないのか? と問うと「え? レッチリのジョン・フルシアンテみたいに?」と戸惑った顔で、しかし不敵に笑っていた。その彼はいまやART-SCHOOLで木下理樹を支えるバンド・サウンドの要だ。とはいえ木下がメインで作詞作曲をこなすART-SCHOOLと異なり、Ropesは戸高とアチコが対等のユニットである。『Usurebi』には戸高の繊細で誠実なメンタリティがよりダイレクトに反映されている。また、静と動は必ずしも対立する概念ではない。コインの両面のように両バンドの活動は補強しあっているように思う。KARENからこの2人編成に移って正解だったのだろう。バンドとしてのケミストリーもいいが、アチコの歌声を生かすことを第一に考えれば、戸高のギター1本のほうが何倍も映える。



(森豊和)






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