ONIGAWARA「アリス」(Self Released)

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 J-POPへの過剰な偏愛の結晶、ONIGAWARAは逆説的なパンク・ミュージシャンである。ポスト・シティー・ポップの先駆者であった自負と、手軽な打ち込み宅録とネット配信オンリーで活動するミュージシャンへの皮肉が、実に屈折した形で昇華されている。快楽的かつ大衆的な音楽を作りながらも、その姿勢は既存のスタイルに唾を吐く。彼らの歌とダンスのステージは80年代ジャニーズの某グループのようにローラー・スケートで滑り出しそうで、実は天井から吊られていて滑ってない、みたいな異様な興奮と喧騒に包まれる。


 2008年にメジャー・デビューするも今年2013年に解散した愛知は三河発のバンド、竹内電気のギターの竹内サティフォとキーボードの斉藤伸也の2人による打ち込みユニット、それがONIGAWARAである。去る2013年9月1日に突然ツイッターで告知してダウンロード配信というゲリラ的手法で、夏を彷徨うヒップホップ・チューン「ピーマン」を投下。翌週にはシュガー・ベイブ風メロウ・ナンバー「TSU・BA・SA」を発表。3週目にはファンキーなギター・カッティングと甘いヴォーカル回しにSMAPの影がちらつく失恋ソング「Bye Bye Baby」。この頃からcinema staffや凛として時雨といったミュージシャンから賛辞を送られるようになり、90年代後半のJ-POP黄金時代への過激なオマージュが話題になる。9月最終週には失恋を経て再び胸の高鳴りを鳴らすビート・ロック「アリス」をドロップ。そしてその配信直後9月27日の初ライヴでは、ツイン・ヴォーカルによる迫真のかけ合いと怒涛の演奏を見せるはずが、楽器を持ちながらも、たまにぶら下げたり、適当に指一本で弾いたり。「アリス」でのLUNA SEAを彷彿とさせるギター・ソロといった見せ場はあるものの、打ち込みをバックに、ハンドマイクでの掛け合いや拙いダンス・ステップで、わざとチープさを強調していた。ポスト・パンク・レジェンドであるマガジンが、イギリス国営テレビ出演時に、演奏しているフリを良しとせず、終了まで両手をだらりとさせて棒立ちだったというエピソードを思い出す。


 インディーズ時代の竹内電気はニュー・ウェイヴ、シューゲイザー・サウンドで武装した山下達郎といった音楽性だった。それがメジャー進出を機にギターの歪みをオフにして、アイドル・グループのようなイメージで売り出す戦略に出る。その是非はともかく、その後の東京進出時に斉藤は他メンバーと袂を分かった。しかし程なくしてリード・ヴォーカル山下の脱退とともに解散、そのまま彼らは表舞台から姿を消すかに見えた。そういった経緯からも想像できまいか。生の現場叩き上げのプロ・ミュージシャンであった彼らが、誰でもできる打ち込みとソーシャル・ネットワーク・サービスを活用する意味を。とても混み入った皮肉が透けて見えはしないか? 「ピーマン」において彼らはSNSでは恋に出会えないとラップしているのだから。


 ところで、神戸在住のトラック・メイカーtofubeatsは、ele-king vol.11のインタビューにおいて、「インターネットの普及で地方格差はなくなるどころかますます深まった。インターネットに現実の速度が追いついているのは東京だけ」という趣旨の発言をしている。そのインタビューを読むと、彼はインターネットを最大限に活用しながらも、それだけではない、結局は「独自の信念を持ってやり続け、どこかのポイントで現実との接点を持たなければいけない」と考えているようだ。そして彼でさえメジャーに行く前に、声だけかけられて話がなくなったり、大人の事情に振り回されたりしたという。また、「ヴェイパーウェイヴの出現で、ついにインターネットと同じ速度で音楽を作る試みが実現した」と語る一方で、その継続が困難であることを指摘し「結局みんな、好きなことを自分のスピードでやるのがいい」と述べ、神戸に住み続ける理由の一端を明かしている。


 ONIGAWARAに話を戻せば、彼らはいやがおうにも物語を背負ってしまった。メジャー・デビュー後のバンド解散と愛知へのリターン、別の形での再始動という、ともすればネガティヴなイメージを抱かれがちな物語だ。しかし、彼らはバンド形態での活動ができない状況を逆手にとって、キラキラでベタな装飾過剰的音楽を作り出す。tofubeatsが90年代J-POPへのオマージュをスマートに昇華し、どろどろした物語とは一見無縁のままで、アイドルの作曲やリミックスを次々手がけて時代の寵児となったのに対し、ONIGAWARAは90年代J-POPの野暮ったさをむしろ強調する。別にひねくれてやっているわけではない。おそらく彼らが本当にやりたい表現だからする、それだけで、きっとそれしかできないのだろう。「Bye Bye Baby」の 《変わらないでいて、と君はそう言うけれど、結局は変われない、僕のせいだよね》 というフレーズに、ONIGAWARAの複雑な心境が反映されている。しかし一方で、「アリス」で二人はこう歌う。


《君の存在に世界が嫉妬しても別にいいじゃない? だって輝きは止められない》


 流行りに応じて臨機応変に変わることなんてできやしない。しかし本気を出せば誰だってそれぞれの場所で輝けるのだ。彼らは不器用なステップを踏んで踊り、もがき、そして歌い続けるだろう。



(森豊和)



【編集部注】「アリス」はONGWARAのサウンドクラウドでダウンロードできます。

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