ONEOHTRIX POINT NEVER『R Plus Seven』(Warp / Beat)

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 いま本稿を読んでいるあなたは、ダニエル・ロパティン(ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー)の公式ホームページにアップされている、カナダ人アーティストのジョン・ラフマンが手掛けた「Still Life(Betamale)」を観ただろうか? 「Still Life(Betamale)」は、本作『R Plus Seven』の収録曲「Still Life」に映像をつけたもので、ネット上にあるフェチ系の画像や動画を組み合わせて制作された、かなりスカトロ要素が強い刺激的なコラージュ作品。筆者はこのMVを初めて観たとき、サマーソニック09で遭遇したエイフェックス・ツインのライヴを想起した。この時のライヴでは、エイフェックス・ツインことリチャード・D・ジェームスの背後に大きなスクリーンが設置され、ラストに差しかかると人体を切り刻む映像も挟まれたりと、リチャードの悪意的とも言える遊び心が如実に表れていた。まあ、それでも「Still Life(Betamale)」ほどあからさまではなかったし、そう考えると「Still Life(Betamale)」は一線を越えたとも言える。何にせよ、現代を表象するフリーク・アウト芸術の傑作であるのは間違いない。


 とはいえ、無数のCM音楽をサンプリングし、それらを繋ぎあわせて作り上げたアルバム『Replica』から約2年経って届けられた本作に、「Still Life(Betamale)」の過激さはない。『Replica』にあった皮肉も減退し、より幅広い層に届くサウンドに徹している。だが、こうした作風も、ティム・ヘッカーとのコラボレーションを果たし、現代音楽に傾倒できるだけの音楽的知識とセンス、さらには今年12月日本公開予定のソフィア・コッポラによる映画『The Bling Ring』のオリジナル・スコアを担当するなど、さまざまな側面を持つダニエルの姿を知る者からすれば、冷静に受けとめられるものだろう。先述のMVを発表してしまう悪戯心も同様だ。むしろ、こうした高尚になりすぎない、言ってみれば俗にもなれる奔放さがダニエルの持ち味であると、多くの人に共有されているのではないだろうか?


 こうしたことをふまえれば、ダニエル・ロパティンという男に、ひとつの作品を基準に何かしらのレッテルを貼るのはお門違いなのかもしれない。もちろん本作自体も十分に魅力的な作品だ。アンビエントやミニマル・ミュージックの新たな可能性を開拓しながら、《Not Not Fun》をはじめとするインディー・ミュージックの文脈で再評価されるドローンの流れと絶妙に交わる柔軟性も光り、さらには精密な構築美が素晴らしいサウンド・プロダクション、聴き手の想像力を巧みに誘発する音響空間、ジョルジュ・ベレックの小説『人生使用法(La Vie Mode D'emploi)』に着想を得たというコンセプト、そしてダニエル自身の「このアルバムには多くの寓意がある」とする発言など、興味深い点はいくつもある。しかし、これらもダニエルを形成する要素群の一側面に過ぎない。


 そういった意味で本作は、ダニエルのなかに内在するカオスと狂気が底なしであり、限りなく多面的であることを知らしめる作品だ。おそらく、ダニエルの言う「多くの寓意」も、本作を聴いた人の数だけ存在するものであり、この寓意の増殖こそが本作におけるダニエルの狙いなのだと思う。


 高尚も低俗もごっちゃになり、従来の価値観やモラルが次々と貶められていく混沌とした現況だが、ダニエルはその混沌をさらに押し進めようと試みる。



(近藤真弥)

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