NEW ORDER『Live At Bestival 2012』(SUNDAY BEST / Beat)

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 2012年4月、ピーター・フックのインタヴューに立ち会うことができた。ザ・ストーン・ローゼズ:ロックを変えた1枚のアルバム』用におこなったため、基本的にはストーン・ローゼズに関する話が多かったものの、時折ハッピー・マンデイズ、そしてニュー・オーダーについても触れるなど、いろいろ饒舌に語ってくれた。サングラスをしているせいで目の動きはわからなかったが、仕草や語り口には、2007年にニュー・オーダーからの脱退を宣言しながらも、いまだ完全には割り切れていない複雑な気持ちが滲み出ていたように思う。インタヴューでは、「今はもうニュー・オーダーもやってないし、仕事を探してるんだけど(笑)」と、半ば"過去"のようにニュー・オーダーの名を口にしていたが、でもその"仕事"とはニュー・オーダーのことではないか? 日射しが強い外でインタヴューをしていたせいか、インタヴューが終わるとすぐさま上半身裸となってケータリングの食事にありつくピーターを見てそう思った。


 本作『Live At Bestival 2012』は、ニュー・オーダーがベスティヴァル2012という音楽フェスティヴァルに出演した際のパフォーマンスを収録したライヴ・アルバム。結論から言うと、最高の内容だ。中年太りのキューピーちゃんと化したバーナード・サムナーの歌声は、今でも多くの聴き手に響く哀愁を漂わせ、つたなく聞こえるエレクトロニック・サウンドも、よくよく聴くと最新のプロダクションが取り入れられているのがわかる。特に「586」のパフォーマンスは、ラウドなギターにエレクトロニック・サウンドが上手く馴染み、シンセの音色もポルタメントなどのパラメーターを微調整することで常に変化させるなど、細かいところにまで手が行き届いている。こうした質の高い演奏に応える観客の声も熱気を帯びており、感動的な瞬間がいくつもある。


 しかしそこには、膝までぶら下げベースを弾きたおすピーター・フックの姿はない。イアン・カーティスの自殺によりその歩みを止めたジョイ・ディヴィジョンから現在のニュー・オーダーに至るまでのストーリーを知らない者にとって、本作に収められた熱狂の記憶は至福として受けとめられるものだろう。だが往年のファンからすると、ピーターの不在という現実をまざまざと見せつけられる苦みとなってしまう。


 ピーターのニュー・オーダーに対する愛情はとても深く、だからこそ喧嘩別れという形でニュー・オーダーから離脱してしまったのだろう。だからといって、ピーター抜きでニュー・オーダーを続けるバーナード・サムナー、スティーヴン・モリス、ジリアン・ギルバートがニュー・オーダーに愛を注いでいないかと言われたら、決してそうではない。本作を聴けばわかるように、3人はニュー・オーダーという名の物語を背負い、その物語に魅了されているファンたちの期待も裏切らないよう努力している。


 かつてイアン・カーティスは、「Love Will Tear Us Apart」で次のように歌った。


《ぼくらはやり方を変え 別の道を進みはじめる そんなときに愛は ふたたびぼくらを引き裂く》


 このフレーズはそのまま、現在のピーター・フックとニュー・オーダーの関係に当てはまる。



(近藤真弥)

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