MODERAT『II』(Monkeytown)

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 思えば2009年の時点において、モードセレクターはトム・ヨークの偏愛もあり、前年のレディオヘッドのジャパン・ツアーでフロント・アクトとして抜擢されるなど多くの方に既に知られていたのみならず、巧みなDJや雑食的ともいえるサウンド・センスに対する注視の規模が膨れつつある時期だった。また、同年に自身の《Monkey Town》レーベルを立ち上げたことも大きかっただろう。なお、《Monkey Town》からはマウス・オン・マーズやオット・フォン・シーラークなどのリリース、更には近年では《50 Weapons》までも立ち上げ、彼ららしい色と実験的な試みを推し進めている。


 しかし、ダンスホール、ニュー・エレクトロ、グライム、ダブステップという多岐なるカテゴライズで語られたり、いわばジャンルレスでありながらも、フォーカスをあえて定めないところが魅力でもあり、欠点と言えなくもなかったが、アパラットと組んだモデラットとしてリリースした2009年の『Moderat』は、モードセレクターのみならず、双方の良いところが交わる興味深い内容になっており、ストイックさよりもジャーマン・テクノの持つシンプリシティーとアナログ的な音の要素が表前していた。モデラットそのものがあくまで、遊び心としてライヴに向けたプロジェクト的に始めた分だけ、肩の力が抜けていたところが良かったのかもしれない。


 『Ⅱ』とだけ名づけられたモデラットの新作は、そういう期待をもって聴くと、時おり別のアーティストの作品のように思えてしまう錯覚もおぼえる。メロディアスでシックなエッセンスが増え、アンビエント的な美しさが目立つものになっているからである。先にシングルとして公開された「Bad Kingdom」は、ライのようなソウル・フィーリングの強いものだったように、内省と夜の香りがメロウに漂うものだ。それはアルバムでの「Let in the Light」「Gita」といった曲にも通底している。


  "遊び"として始まったプロジェクトにも関わらず、レコーディング作業が難航を極め、各自の生活におけるセラピーのようになったというエピソードも興味深く、昨今のドレイク、またはチルウェイヴといった音からの影響も漂いながら、全体的にはポップに拓かれたという向きもあるだろうが、10分を越えるテック・ハウス的な「Milk」のようなトラック、「This Time」のスペーシーなテクノも混ざっていることを考えると、ライヴでの即興性に余地を残しているのは前作と変わらずだが、作品としての纏まりは高くなっている。


 スポンティーニアスに生まれた彼らが、逆説的に作品ではこうしてアイデアを練り込み、作り込んできた捩れはどうにも同時代性との共振をしている訳ではない微妙なズレがあり、そこがモードセレクター、アパラットの来歴、そして、モデラットという在り方を考えると、不思議と納得できる佳作になっていると思う。



(松浦達)

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