MARCEL DETTMANN『Dettmann ll』(Ostgut Ton / OCTAVE-LAB)

|
MARCEL DETTMANN『Dettmann ll』.jpg

 先日マルセル・フェングラーがリリースしたアルバム『Fokus』は、複雑なリズム・ワークと硬質かつ繊細なサウンドが見事に交わる良作だった。Resident Advisorでは、「ベルリンを訪れる観光客もわざわざ彼のセットを聴くために航空券を予約するわけではない」と、ちょっとあんまりな物言いをされているフェングラーだが、『Fokus』のリリースによって、テクノ・シーンでは頭ひとつ飛び抜けた存在に遂げたと言える。ノン・ビートの「Mayria」で幕を開け、「Liquid Torso」がラストに待ち構える流れはドラマティックな起伏を意識した並びになっており、それゆえテクノ・ファンのみならず、より幅広い層に届く可能性を宿しているのも素晴らしい。おそらく『Fokus』においてフェングラーは、アーティストとしての側面をアピールしたかったのだと思う。


 そして、フェングラーと共にベルリンのクラブ《Berghain》でレジデントDJを務めるもうひとりの"マルセル"、マルセル・デットマンも、2010年の『Dettmann』以来約3年ぶりとなるアルバム『Dettmann ll』を完成させた。比較的長いスパンを空けているが、『Dettmann』以降のデットマンは、「Translation」「Range」などのEPをリリースしながら、モードセレクターが主宰する《50 Weapons》からは「Deluge/Duel」「Linux/Ellipse」を発表したりと、活発に動いていたから久しぶりな感じはしない。むしろ、世界中をDJとして飛びまわり、エミカ「Count Backwards」やモーフォシス「Too Far」のリミックスを手掛け、ミックスCD『Conducted』も作り上げるといった忙しさのなかで、よく本作を完成させられたなという驚きのほうがデカイ。


 そうした多忙の合間を縫って制作された本作は、どす黒いサウンドスケープとストイックな4つ打ちというデットマン・サウンドの特徴が終始貫かれている。アルバム全体の流れも、先述した『Fokus』のドラマティックさとは対照的で、地の底を這うようなリズムがサディスティックに刻まれるさまは聴き手に淡白な印象を与えるが、同時に妖艶な雰囲気も醸し出す。


 また本作は、オープニングの「Arise」から5曲目の「Lightworks」までは控えめな出音の強さを保ちながらも、続く「Soar」では一気にキックの強度を上げるなど、デットマンのDJプレイでよく見られるパターンが散見される。こうした内容になったのは彼のDJとしての自負が所以かもしれないが、フェングラーのように野心を表し、より多くの聴衆を求めるチャレンジングな姿勢があってもよかったのではないか? これまでデットマンを追いかけてきたファンの期待に応えるものではあっても、新たなファンを取り込むには少し物足りない作風というのが正直なところだ。


 とはいえ、無駄に音数を増やさず、パンニングや音色を徐々に変化させることで聴き手の五感を支配していくそのインテリジェンスと狂気はオウテカに匹敵するものであり、それは本作でも堪能できる。オウテカのランダム・ビートと比べれば、本作のビートはシンプルの極地にあるものだが、その極地こそが本作に漂う蠱惑的な不気味さに繋がっている。



(近藤真弥)

retweet