MANIC STREET PREACHERS『Rewind The Film』(Columbia / Sony)

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 マニック・ストリート・プリーチャーズ(以下マニックス)の最新作『Rewind The Film』。日本語にすると『映画を巻き戻して』。早いもので、本作はマニックスにとって11枚目のオリジナル・アルバムだ。こうした彼らの歴史も手伝って、本作のタイトルはノスタルジーを漂わせているようにも見える。哀愁を滲ませた言葉が随所で見られ、さらにはカントリーやフォークなどのアコースティック・サウンドが目立つ内容ということもあって、本作中もっとも軽快な「Show Me The Wonder」以外は落ち着いた雰囲気の曲がほとんど


 マニックスは、かの有名な「30曲入りの2枚組アルバムを1枚だけ作って終わりにしたい。それを世界中でナンバーワンにして俺達は解散する」という公約を掲げ、ファースト・アルバム『Generation Terrorists』をリリースした。リッチー・エドワーズはスローガンがスプレー・ペインティングされたシャツを着用し、ジェームス・ディーン・ブラッドフィールド、ニッキー・ワイア、ショーン・ムーアの3人はイラついた表情や仕草を隠そうとせず、むしろ積極的にイライラをアピールしていた。今で言う"イタイ奴ら"だろうか。しかし、そのイライラが孤高のマスターピース『The Holy Bible』に結実するのだから、若さゆえの傲慢さも馬鹿にはできない。


 だが、その代償とでも言おうか、一時は地元カーディフにある精神病院に収容されるなど、以前から不安定だった精神状態がついに崩壊したリッチーは、1995年2月21日に忽然と姿を消した。


 そうした苦難を経てリリースされた『Everything Must Go』以降は、リッチーの喪失という空白を抱えながら活動してきた。おそらく、本作で初めてマニックスの音に触れ、枯れながらも色気のあるジェームスの歌声に驚く人もいると思うが、そういう人にこそマニックスの歴史を知ってほしい。彼らは泥臭くとも、常に正直であり続けたことがわかるはずだ。


 ディストーション・ギターは影を潜め、奇を衒ったアレンジも少ない『Rewind The Film』では、その正直なマニックスの姿がこれまでよりも明確に現れている。そんな姿を垣間見れる点は2004年の『Lifeblood』と類似するが、ソフィスティケートされたシンセ・サウンドがアルバム全体を支配し、それが結果としてマニックスから清々しさを奪うことに繋がった『Lifeblood』と比べれば、本作は持ち前の清々しさを内包しており、ルーシー・ローズ、リチャード・ホウリー、ケイト・ル・ボンといったゲスト・ヴォーカル陣もアルバムに華を添え、作品の彩度を高めている。特に表題曲「Rewind The Film」でジェームスとツイン・ヴォーカルを務めるリチャードの歌声は、聴き手を高揚させるドラマティックな情感を湛えた絶品もの。


 マニックスといえば歌詞も見逃せないが、そのなかでも一際興味深いのは「Show Me The Wonder」だ。実を言うとマニックスは、曲中に何度も登場する《Show Me The Wonder》と似たフレーズをとある曲で使用している。それは2001年のアルバム『Know Your Enemy』に収録された「Found That Soul」で、この曲には《Show Me A Wonder》というフレーズが登場する。ちなみに「Found That Soul」は、1999年12月31日、カーディフのミレニアム・スタジアムに5万人を動員して行われたライヴにまつわる複雑な心境が反映された曲だそうで、ニッキーは「あの日カーディフのステージから歩み去った瞬間、僕らはひとつのピークに達したんだ。この先そのピークを再現しようとしても無意味で、新しいことをしなければならないと。従って新作に向けてスタジオ入りした時はいつになくリラックスし、最高にナチュラルな気分を覚えていた。自分たちの選択が正しく、間違いなく次のアルバムに到達できると確信していたからね。(中略)「Found That Soul」はそういう心理状態を象徴している」(※1)と語っている。


 彼らはこうした引用を何度かやっており、過去にも初のベスト・アルバムにおいて、代表曲「Roses In The Hospital」の歌詞に出てくるフレーズを引用した『Forever Delayed』というタイトルを掲げている。2002年10月にリリースされた『Forever Delayed』、そしてその約9ヶ月後にお目見えした歴代シングルのB面+レア・トラック集『Lipstick Traces』は、バンドを『Lifeblood』の制作に向かわせる手助けとなったらしく、「過去と折り合いをつけていたからこそ、『Lifeblood』のレコーディングを始めた時にいつもより自由を感じたし、自分たちの気持ちに素直だった。だから2枚のベスト・アルバムは狙った通りの効果をもたらしてくれたんだよ」(※2)と、ジェームスも話している。さらに2009年の『Journal For Plague Lovers』はリッチーが残した歌詞をもとに制作が進められ、そうすることでリッチーに対する憶いと折り合いをつけるなど、マニックスは重要な区切りとなる作品では"過去"をインスピレーション源にすることが多い。


 そういった意味で本作は、もう若くないマニックスが怒りだけに頼らず歩みを進めていくための重要な区切りとなる作品かもしれない。それゆえ、トーンが抑えられながらも力強さを感じさせ、酸いも甘いも噛み分けた大人だけが持つ味わい深さを漂わせる。そんな作品を作り上げるまでの境地に至ったマニックスは、称賛に値するバンドだと心の底から思う。




(近藤真弥)




※1 : 『Know Your Enemy』の日本盤ライナーノーツより引用。

※2 : 『Lipstick Traces』の日本盤ライナーノーツより引用。


【編集部注】『Rewind The Film』の日本盤は9月25日リリースです。

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