KING KRULE『6 Feet Beneath The Moon』(XL / Hostess)

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 ヤックを脱退し、最近新たにヘブロニックスというプロジェクトを始めたダニエル・ブルンバーグは、かつてケイジャン・ダンス・パーティーとしてアルバム『The Colourful Life』を作り上げた。この作品を残して、ケイジャン・ダンス・パーティーはその命を散らしてしまったが、あの刹那的とも言える溢れんばかりの輝きは、今でも筆者の心奥深くに残っている。2008年のサマーソニックで見せたライヴ、あのステージ上でいかにも神経質な振る舞いを終始貫くダニエルの姿は、ケイジャン・ダンス・パーティーの終わりを暗示していたのかもしれない。だが同時に、ダニエルが抱える抑えきれない創造性と危うさも溢れ出ていて、「こういう人のことを"天才"というのだろうな」と、筆者は感慨深く想ったものだ。それほどまでにケイジャン・ダンス・パーティーというバンド、そしてダニエル・ブルンバーグという男は、綱渡りの如く不安定で、それゆえ美しかった。


 イギリス出身のキング・クルールことアーチー・マーシャルも、そうした揺らぎから生じる美しさを感じさせる。19歳とは思えないあまりにも渋すぎる歌声には、若々しさを覆い隠してしまうほどの老練さがありながらも、若者らしい軽やかな空気も漂っている。あからさまに暗くはないが、無根拠な前向きさに溺れることもない。いわば曖昧模糊。この曖昧さから聴き手はマーシャルの揺らぎを感じ取り、彼のパーソナルな領域に足を踏み入れる。本作『6 Feet Beneath The Moon』とは、そういうアルバムだと思う。


 また本作は、ジャズやブルースの要素が滲むダビーなサウンドスケープ、レゲエからの強い影響を感じさせる過剰なエコー、そして「Foreign 2」で見られるブリアル以降のポスト・ダブステップ的音像など、実にさまざまな要素が混在している。かつてマーシャルは、ズー・キッド名義でサイケデリックが振りかけられたフォーキー・サウンドを鳴らし、さらにDJ JDスポーツとしても興味深いヒップホップ・トラックを数多く作っており、その豊穣な音楽的嗜好が本作にも反映されたのだろう。


 ちなみにDJ JDスポーツでは、UKガラージのタグがつけられた「Pints Theme」という軽快なトラックを制作している。お世辞にも出来が良いとは言えないトラックだが、マーシャルがダンス・ミュージックの影響下にあることを知れるので、ぜひ聴いてみてほしい。マーシャルは、マウント・キンビーの最新作『Cold Spring Fault Less Youth』に収められた「You Took Your Time」「Meter, Pale, Tone」でヴォーカルを務めているが、それが半ば必然だったこともわかるはず。ジェームズ・ブレイクもそうだが、マーシャルもまた、ダブステップに感化されたシンガーソングライターなのだ。


 とはいえ、本作における最大のアピール・ポイントは、やはり"孤独"として響く儚いマーシャルの歌声だ。まるでここ数年の七尾旅人みたいなアコースティック・サウンドが光る「Boder Line」や、ヒップホップの要素が色濃い「Bathed In Grey」では、その"孤独"と儚さがさらに際立つ。共同プロデューサーにジ・エックスエックスサヴェージズとの仕事で知られるロディー・マクドナルドを迎えていることもあって、本作は"声"が前面に出ているが、この人選も"孤独"と儚さを引き出すことに繋がっているのかもしれない。


「Easy Easy」のMVが示すように、本作で歌われていることのほとんどは、マーシャルにとって身近な風景である。にも関わらず本作の歌が筆者に届いたのは、声そのものが持つ温度、もっと言えばマーシャルが持つ世界観と視点の魅力ゆえだろう。


 現実に対する冷めた気持ちを奮い立たせるように歌うマーシャルの姿が刻まれた本作は、いわば "若さゆえの情緒不安と才気の横溢が交わる奇跡的な一筋の光" 。十分すぎるほどの眩しい輝きを放っている。



(近藤真弥)




【編集部注】『6 Feet Beneath The Moon』の日本盤は9月11日リリースです。

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