DUSTIN WONG『Meditation Of Ecstatic Energy』(Thrill Jockey / PLANCHA)

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 ポスト・クラシカルが過渡期にある今、また、アカデミズムに基礎を持たずに、実験のための実験と呼べる現代音楽はネットを通じてもそうだが、ムーヴメントとして結実しては枝分かれしている。例えば、グリッチ、マイクロ・ウェーヴ、サインコアなどの音響集態から逸れてゆくポスト性に対して、名称付けをするには多くのバグが含まれていたのも道理であり、バグ込みの音楽を補整するために、テクノロジーは進歩したのかもしれず、そのテクノロジーに翻弄されるように、ヴェイパーウェイヴの扉を叩いた世界中の人たちはそこに何を見たのだろうか。


 イタリア未来派の画家にして、作曲家のルイージ・ルッソロはイントナルモーリという"調律された騒音機械"を実演用に作り上げたが、それは未来へ向かうための生活に寄せたインダストリアルな要素を込めようとしたものであり、オリジナルは第二次世界大戦のために現存しないが、模倣されてゆくための多様性を用意せしめたといえた。このダスティン・ウォングの場合は、イントナルモーリではなく、エレキ・ギターと多くのエフェクトでミニマルに、非・調律的なアブストラクトなサウンド・レイヤー内に騒音を巡らせる。


 ダスティン・ウォングは、嶺川貴子との共作盤『Toropical Circle』でも見事なサウンド・ワークを表象していたのもあるが、兎に角、様々な場所で彼の名前を見ることも、彼の音を聴く機会も多かったと思う。


 日本にも、朝霧JAMなどでたびたび来日し、ビーチ・ハウス、ダーティー・プロジェクターズとのUS、日本ツアーにも出演し、足元に並ぶ膨大な数のエフェクト群を駆使し、ギターで数十分に渡り、陶然とした音を構築してゆくさまは体感した人なら分かるかもしれない。


 少し彼の来歴に触れると、ダスティン・ウォングはハワイで生まれ、2歳の時に日本へと移住している。そして、ハイティーンの頃には友人のユタカ・ヒューレットとともに、Delawareというバンド/デザイナーとして活躍し、立花ハジメとLow Powersのメンバーでもあったエリと、モバイルフォンの着信音を用い、歌うバンドThe Japaneseを結成するなどもしていたが、大学進学で渡ったボルティモアで結成したポニーテイルというバンドは世界的な評価が高かったのもあり、そこで一気にダスティンの知名度が上がったといえる。


 しかし、これからというなか、ポニーテイルは2011年9月に解散し、彼はソロになる。ソロになってからは、前述のとおり数多くのライヴや客演を経ながらも、スタジオ作としては2012年の『Dreams Say, View, Create, Shadow Leads』でトリップ感とドリーミーさを兼ね揃えた自由とラフさ、風通しの良さが凝縮された興味深いものを上梓したが、ただ、その作品内では、個人的にはドゥルーズが言うところの、「優れた音楽は繰り返し演奏される他なく、詩は暗誦される他ない」という示唆に添えば、記号/本質の狭間の中で本人自身の類似反復を感じてしまうところにもどかしさを感じた。要は、彼の特色、本質というものがライヴでは即興的なところで、横道に逸れてゆく細部に面白さを感じていただけに、スタジオ作でどうも端整になってしまわざるを得ないところ、その音楽言語(ロゴス・ムジコス)を再写できないか、ということに帰結する。


 この5枚目となる『Meditation Of Ecstatic Energy』は、そういう意味で転機作でもあり、音響の奥行き、実験のための実験ではない、特異性をモノにしつつある手応えを感じる。1曲目の「The Big She」から金属的なギターとアンビエンス、ループが聴覚を刺激してくる。彼の声もエコーのように撥ね返る。以前のスタジオ作よりも、プログレッシヴな要素が前面に押し出され、構成は複雑になっている。5曲目の「Out Of the Crown Head」では反復される音を追いかけてゆくと、トランシーな感覚は初期のバトルズを彷彿とさせるところもある。時おり比較に出されるマイク・オールドフィールドなどとの近似もあるが、元来、パンクやオルタナティヴ・ロックがルーツにある彼だけに、静/動の二分線など明確に敷かず、雑多に溶かし込んでゆく。また、11曲目に「Japan」というタイトルがあるとおり、日本に住んでいた過去、造詣も深いだけにメロディーには和的な人懐っこさも垣間見える。


 現象学的な"非=停止"を促す放浪的な佇まいを備えた美しさも含め、ヘッド・ミュージックとしても発見が多いだけでなく、ライヴではまた違った形でパフォーマンスされるだろうことを思うと、ここからまた化けていきそうな予感に満ちている。



(松浦達)

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