CHVRCHES『The Bones Of What You Believe』(Virgin / Hostess)

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 スコットランドはグラスゴー発のエレ・ポップ・ユニット、チャーチズ。ファースト・アルバム『The Bones Of What You Believe』は、世界を通した自己の再発見、過去を省みて未来を変えることについての壮大な映画のサウンドトラックだ。彼らは実際に80年代の映画に想を得ている。バンド名は教会を意味するチャーチの複数形。ただしスペルのUをVに変えていて、荘厳でスペクタクルな音世界にマッチしている。


 メンバーはマーティン・ドハーティー(シンセ、サンプラー、ヴォーカル)を中心に、彼の10年来の友人であるイアン・クック(シンセ、ギター、ベース)、そしてマーティンがプロデュースで関わったポスト・ロック・バンドから引き抜いてきた女性、ローレン・メイベリー(ヴォーカル)の3人。トランポリンのように弾むシンセ音に、ドラム・ビートのように放たれるヴォーカルがぴったり絡み合う。ローレンは以前のバンドではドラムも担当しており、歌に自然なリズム感が備わっている。マーティンによればチャーチズの楽曲は、ヒップホップのトラック作りを意識しているという。ヴォーカルのエディットに加え各楽器がレイヤーとなって重なり合い和音を形づくる。3人がそれぞれ別バンドで培った音楽性が見事な編集感覚で組み合わさっているのだろう。仕上がった曲からはメンバー共通のフェイヴァリットであるシンディー・ローパーや80年代エレ・ポップを感じる。実際にライヴでプリンスの「I Would Die 4 U」をカヴァーしていたり、デペッシュ・モードの欧州ツアーをサポートしたりしている。しかしパッション・ピットやトゥー・ドア・シネマ・クラブと共演を果たすなど、あくまで現在進行形のポップスとして評価されている。複雑なことをやりながら、完成品はあくまでシンプルでキャッチーなのがミソだ。


 1曲目The Mother We Shareは、我々が哀しみを越えて取り戻すべきものについて歌っている、いわば映画のメイン・テーマ。優しく暖かく包み込むように音が広がっていく。続く「We Sink」、ここからが本当のプロローグ、深く現実に沈んでいく。光の粒子のような軽快なビートをくぐりぬける。3曲目はリード・シングルになったGun。破片のような言葉と楽器のフレーズが、弾丸のように連打し降りそそぐ。4曲目の「Tether」、朗々たる歌唱から光が地上に降りそそぐような後半部へ、次のLiesにかけて荘厳なリズム・セクションが行く手を遮る困難を象徴する。6曲目「Under The Tide」はマーティン歌唱のデジタル・ロック。後半きらびやかな音が重なりローレンのコーラスも加わる。シングル曲のRecoverは私たち1人1人に勇気ある決断を迫るかのようだ。8曲目の「Night Sky」でアルバムの作風は新たな局面へ突入する。昨今のインディーR&Bの流れを汲んで軽快に跳ねる。9曲目の「Science/Visions」はホラー映画のようなコーラスに激しいドラムが私たちを襲う困難を想像させる。続く曲が「Lungs」(肺)、「By The Throat」(喉)で発声器官の名称であり、映画『ミクロの決死圏』の体内の旅を思わせる。映画で目指す先は脳だが、音楽においては肺から喉が最重要臓器だ。最後の「You Caught The Light」はフレーミング・リップスのバラードを連想した。6曲目と同じマーティン歌唱、光へ打ち込むビートと切なる祈りをささげ、約60分のサウンドトラックは幕を降ろす。と、ここまでの解釈は私の妄想だが、聴き手の数だけ映画が生まれるはず。あなたなりの物語を夢想してほしい。


 映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の主人公と名前が似ていることから、ローレンはマーティンを、作中のタイム・マシンを発明する博士の愛称「ドク」で呼んでいるという。自分をチャーチズに誘ったマーティンは、まさしく彼女をめくるめく音楽の旅に誘った張本人なのだから的を射ている。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の主人公は過去に向かい自分のルーツを知る。自分の両親に出会い父親の未来を変え、ひいては自分自身を成長させる。これは本作『The Bones Of What You Believe』の信念と共通する。マーティンが描いた音楽的構想は、ベイビー・フェイス以上にミラクル・ヴォイスがキュートなローレンの加入で完成を見た。彼女の歌は弾むような生命力で未来へ向かう。映画の希望に満ちた結末を示唆する声であり、新たな冒険の始まりを高らかに告げる。日本独自企画EP収録のNow is Not The Time(今じゃない)でローレンは歌う。


《今、二人は出会えないでいる 私たちはみんな光を見たのよ あなたが居なければ言葉なんて意味がない》




(森豊和)



【編集部注】『The Bones Of What You Believe』の日本盤は9月25日リリースです。



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