ASIAN KUNG-FU GENERATION 『ザ・レコーディング at NHK CR-509 Studio』(Ki/oon)

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「勉強はできない、かといってスポーツもできない、まるでのび太だ。だが、そんなのび太でも、フジロックやサマーソニックに出れた!」


 2003年8月名古屋クラブダイアモンドホール、ZIP-FM主催イベントにおける後藤正文のMCだ。本人も覚えていないかもしれないが力強い宣言。藤子・F・不二雄の漫画『ドラえもん』といえば、ファンが描いた2次創作の最終回で素晴らしいものがある。そのあらすじを簡単に書くと、ある日、ドラえもんが突然動かなくなる。のび太はドラえもんを再起動させるために必死で勉強して科学者となり、未来の世界でドラえもんを発明する、ドラえもんの生みの親は実はのび太だった! というものだ。強引すぎるかもしれないが、後藤正文が作ったドラえもんこそ、地球の未来を考える新聞THE FUTURE TIMESではないだろうか。これは各地のレコード店を中心に2013年9月現在も最新5号が無料配布されており、『ザ・レコーディング at NHK CR-509 Studio』のリリースと相まって、複合的に彼のメッセージが届けられる。


 スタジオ一発録りの本作は、デビュー作から時系列に沿ってヒット曲中心に選曲されている。本編ディスクはベックのカヴァーLoserで終わっているが、ベックがこの曲をヒットさせたのは1994年。後藤が聴いたのは翌年、東京で浪人生活を送っていた頃だという。彼の原点の一つであるこの曲を、今の彼らの音楽性で、現在の社会情勢のなかでアップ・デートして演奏する。換骨奪胎というか、日本のメジャー・フィールドで伝わりやすいものに変えている。ボーナスDVDの映像は、大規模フェスの場を一つにするアンセム「ループ&ループ」に始まり、燃え上がるギターリフに決意を秘めた「それでは、また明日」から、2012年の最新オリジナル・アルバム『ランドマーク』収録曲中最も問題作な「AとZ」で終わる。古代文明の儀式で打ち鳴らされるようなビートに呪文のようなヴォーカル、サビはパッション・ピットみたいに炸裂し広がっていく。元々はエモ・コア・バンド的な爽快さがウリだった彼らは、分かりやすいメロディーはそのままに少しずつ進化してきた。その経過記録を単なるベスト盤ではなく再録という形で提示している。現在形の有効性を示した上で、過去音源を定額制音楽サービスに開放する流れだ。


 最近のインタビューで、後藤正文はサザンオールスターズのような国民的バンドになりたいと語っている。時間の経過をスパーンと取っ払う音楽、普遍的に歌い継がれる音楽をつくりたい、と。一方で『THE FUTURE TIMES』においては基本的に聞き手に徹している。餅は餅屋だ。専門の学者、識者にインタビューする。そしてレーベル兼音楽サイト《only in dreams》 を立ち上げ海外ミュージシャンを紹介したり、積極的に国内インディー・バンドを支援している。最近でもスカートや吉田ヨウヘイgroupのような一般的にはまだ無名なバンドにまで注目している。彼らの現在の活動。その中心となるテーマは「シェア」だという。《only in dreams》等で彼らが勧めるマイナー・バンド、海外の音楽に注目が集まり、『THE FUTURE TIMES』を通して彼らが選び、伝えたい思想が広がっていく。今すぐ利益を生むことではなく、未来へ向けての土壌作りだ。かつて君と僕の半径5メートル圏内を歌った彼らは、その5メートルの平和を守るために、外の世界を相手取る。後藤正文は過去から学び、現実的なヴィジョンを構築する。いつまでも情熱だけでは済まされない。今ある世界を作ったのは我々ひとりひとりだ。我々は自ら変わることを選べる。


 ここまで書いて気づいたのだが、これはそのまま今のASIAN KUNG-FU GENERATIONの歌詞が持つ世界観ではないだろうか。後藤正文が発明したドラえもんは『THE FUTURE TIMES』ではなく、ASIAN KUNG-FU GENERATIONそのものだった。子ども達の未来をつないでいく。音楽は時間も空間も越える。様々な大切なことを伝えるタイム・マシンだ。




(森豊和)





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