ARCTIC MONKEYS 『AM』(Domino / Hostess)

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 傑作。しかし、1stアルバム『Whatever People Say I Am, That's What I'm Not』に向けられた「傑作」とは、少し異なる。1stアルバムは、若者が抱えているフラストレーションを彼らなりのガレージ・パンクで爆発させた、リズムなど関係なくとにかく衝動的に跳び回りたくなるような作品としての「傑作」だった。そして、5thアルバム『AM』は、まだどこかに複雑さを内包しながらもクールでセクシーな大人になったというリアリティーをアクセントに、デビュー以来(または、転換期の3rdアルバム『Humbag』以来)アークティック・モンキーズが探し求め続けてきたスタイルを、遂に体現した作品として「傑作」なのだ。


 今作中で特に印象に残るヘヴィーかつシックなギター・サウンドは、実年齢的にも経験的にも今のアークティック・モンキーズらしい独特のエモーションを感じる。やはり、幾度となく実験を重ねて音を作っても、経験と年齢が伴っていないと出せない音があるのだと思う。今作のギター・サウンドは、彼らの兄貴分ジョシュ・ホーミが率いるクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ、ツアー中に楽屋で聴いていたというブラック・サバス、彼らが少年時代にコピーしていたレッド・ツェッペリンなどとオーヴァーラップさせることができる。しかし、何とも特定できず、様々なバンドの名前を挙げてしまうというのは、数々の先輩バンドたちのサウンドが彼らの中で「アークティック・モンキーズのオリジナリティー」へと変換されているという実感でもある。さらに、この実感の中にはスコット・ウォーカー的なエレガンスをも見出すことができる。一見複雑ではあるが、これが彼らをモダンなロック・バンドであると認識(または再認識)するための足掛かりになるのではないだろうか。


 また、アレックス・ターナーが『AM』について「ドクター・ドレーのビートようなサウンド」と発言していたり、アウトキャストから影響を受けていると言っているように、アークティック・モンキーズのロックをよりモダンにしているのは、ヒップホップの要素である。彼らはティーンの頃からヒップホップに親しみ、グライムの興隆を体験してきている。このことがリリックのフロウやビートといった部分に影響を与えている。「R U Mine ?」のリリックにはこれまでのアークティック・モンキーズらしいフロウがあるが、全体的なリリックのフロウに関しては1stアルバムや2ndアルバムの方が顕著だと思う。どちらかというと今作はビートの方がヒップホップ的だといえる。アレックスがドクター・ドレーのビートを例に挙げたのは、今作が総じてBPM低めで、夜の雰囲気を醸し出しているということからだろう。そして、アレックスが「前作よりスタジオアルバム的」と説明しているので、ドクター・ドレーのようにスタジオできっちりと作った作品だということもそれとなく示しているのではないかと、僕は思っている。『AM』のタイトなビートを形成しているのは、マット・ヘルダースがシンプルなリズムのパートを繰り返し叩いたものとドラムマシーン。楽曲によっては両方を使っているそうだ。「Do I Wanna Know ?」「Why'd You Only Call Me When You're High ?」「I Wanna Be Yours」がその良い例で、タイトなビートにのせてR&B風に歌うアレックスは、史上最高に色っぽい。その上、《I don't know if you feel the same as I do / But we could be together if you wanted to》(「Do I Wanna Know ?」)や《And I can't see you here, wondering where I am ?》(「Why'd You Only Call Me When You're High ?」)といったフレーズをサラッと歌っているのだから、相当カッコイイ。そりゃあリーゼントにスーツが似合うわけだ。


 こうやって『AM』に聴き惚れているうちに、彼らはアメリカ、イギリス、ヨーロッパを回って日本にやってくる(はず)。きっと、日本にやってくる頃には、もう次なるアークティック・モンキーズのサウンドのベースとなるものを模索し始めているに違いない。4thアルバム『Suck It And See』をリリースしてから約半年後に「R U Mine ?」をリリースした時のように。まったく、クールなやつだ。でも、そういうところがアークティック・モンキーズの最高に良いところでもある。



(松原裕海)

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