WALTON『Beyond』(Hyperdub / Beat)

|
Walton - Beyond.jpg

《Hyperdub》は2004年に始まって以降、ヒットとチャレンジとフックアップを重ね、現在までダブステップ・シーンを最前線で引っ張ってきたレーベルのひとつと言っても過言ではない。そんな《Hyperdub》からこのアルバムがリリースされたというのは、ターニングポイントを迎えつつあるシーンに対する、新たな才能のデビュー・アルバムをキッカケとした新たなチャレンジと捉えられるだろう。


 ウォルトンことサム・ウォルトンは、マンチェスター出身で現在22歳。ちなみに彼は、2011年にデビューした時はスクール・オブ・サウンド・レコーディングス・マンチェスター(SSR Manchester)に通う学生だった。トラックメイクはそれ以前からおこなっていたそうで、UKガラージ、UKファンキー等の音楽に影響を受けながら、グライムやダブステップのトラックを作っていたという。確かに、これまでに彼がリリースした2枚のEP「Walton」と「All Night」は、UKガラージやUKファンキーの色が出ており、しっかりルーツを踏まえた"正統派"という印象だった。


 しかし今作は、これまでの印象を崩してから再びウォルトンの姿ができあがっていくのと同じ様に、彼なりにリズム/ビートを分解していったところからトラックができている。奥深くで渦巻く4つ打ちが印象的な「Need To Feel」や「Amazon」もあれば、「Love On The Dancefloore」や「Frisbee」といったビートそのものを排除したようなトラックもあるので、聴いている間はそのギャップに振り回される。強いて言うなら、彼のベースでもあるUKファンキーやUKガラージっぽさを保ちながらハウスに近づいている。はっきり「斬新!」とは言えないが、新たなフェーズに差し掛かったサウンドでもあるように感じる。ビートや音階ではない、ウォルトンが再構築していきながら新たに加えた何かが存在感を放っている。筆者はそんなにあっさりと表現できてしまうモノではないような気がするのだが、その「何か」に関してウォルトン本人は「ヴァイブス」という言葉を用いて説明している。


 そして、このアルバムのキーとなっているのはR&Bのサンプリング。トラックにデトロイト・テクノ的な「黒さ」を纏わせているだけでなく、トラックタイトルもサンプリング元に由来しているものがほとんど。特に、イントロ「Beyond」で使われている"A song for yesterday, today, tomorrow and beyond"というフレーズは、メアリー・J. ブライジの「Forever No More」をサンプリングしたもので、本家以上にアトラクティヴに感じさせてくれる。また、「Love On The Dancefloor」と「Every Night」では、アディーナ・ハワードの「(Freak)And U Know It」からの一節、"Making love on the dance floor with clothes on"をそれぞれ異なるカットで使っている。2つは繋がっているのか、それとも別々なのか、ここでも惑わされてしまう。アディーナ・ハワードのサンプリングは「Need To Feel」と「Can't U See」でも登場するのだが、このR&Bのサンプリングが不規則な展開を見せるビートの連なりをひとまとまりに仕上げていると言える。それだけの力を持っている。


 ハウスと言えば、一昨年リリースされたコード9の『Black Sun』も、スキューバが昨年リリースした『Personality』も、それを臭わすものがあった。ただ、彼らのようにダブステップの繁栄に関わってきたアーティストと、今作でアルバム・デビューのウォルトンとでは、「ダブステップからのシフト」といっても意味が変わってくる。ここ数年から今、彼らが意識的に、自らの流れを変えようとしているのは明白。あとは、リスナーである我々がシフトするシーンへ参加するのみだ。



(松原裕海)

retweet