VARIOUS ARTISTS『TANUKINEIRI DRINK SAMPLER』(Tanukineiri)

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 夏まっさかり。一服の清涼剤にグッド・ミュージックはいかが? そんなキャッチ・コピーが浮かぶ30曲入り無料コンピレーション。90年代オルタナから最新流行のエレクトロまで様々な楽曲が詰まっている。


 ミュージシャンの出身地も日本から海外に及ぶ。美濃国(岐阜)のネット・レーベル《Tanukineiri》がレーベル内にとどまらず立候補を募り作り上げたアーティスト・サンプラーだ。ユニークなのがそれぞれ参加者が飲み物をイメージした楽曲を用意していること。《Tanukineiri》が陶器の通販も手がけていることにかけている。陶器の器を購入して音楽を聴きながら飲んでほしいということだろう。飲食は一般的なテーマであり誰にでも受け入れられやすい。無料配信のインディー・ダンス・ミュージックとつなげたのは上手い(美味い)。首謀者の野田は「アンダー・グラウンド・カルチャーを集約させ世に出したい」と発言している。


 さて肝心の楽曲に移ると、どの飲み物を選び、どう表記し演奏するかが各人の性格判断のようになっていて興味深い。それぞれのアーティスト紹介はウェブ上で読むことができるため一部のみさらっと紹介する。レーベルの中核であるエレクトロ・プロデューサーHouse Of Tapesが直球どポップな楽曲を提供したのを筆頭に、少し味見して気に入るようなシングル向けチューンがそろっている。このサイケデリック・ドローンは!? と引っかかった億兆.PKNY.αが実はLOVELY SNOOOPY LOVEのメンバーによる変名だったり。JAPAN TIMESで紹介された女性SSW may.eのレーベルへの置き土産が収録されていたり。DUMMYSelf Blownといった海外サイトで紹介された仙台の若手プロデューサーhiroto kudoや、USのTiny Mix Tapes2013年上半期ベスト30に選出された名古屋のジューク・プロデューサー食品まつり a.k.a. foodman等、まだまだ紹介しきれない、興味が尽きない面子だ。一般公募という性質上、多少玉石混交になる傾向は否めない。しかし新しい可能性をとりたいのだろう。実際通して聴きごたえのあるコンピレーションとなっておりカオス故の不思議な統一感さえある。


 レーベル・オーナー野田はまた「過去の産物を残すことにもロマンを感じてもらう、クリエイター自身が経営する力をつけてもらう、生活を売る」といったテーマを掲げている。そのために他業種のクリエイターとのコラボやイベント開催など様々な展開を積極的に模索している。生活のためだけなら本業に徹すればいいのだ。ロマンが重要なのだろう。今後どんどん音楽がタダになって誰もが世界中にアクセスできる状況で、コンピレーションを下手に作っても珍しくない。どうしたら多くの人の目に留まるか、どうしたら商品を買ってもらえるか、ますます大変な命題になっていく。ここからは私の推測だが、本業の陶器販売を行いながら音楽に携わることもしたい、という思いが苦肉の策でこういったレーベル形態を生んだのだろう。時間もお金も若さも、環境に余裕があって活動する人が良い作品を生み出せるとは限らない。「窮鼠猫を咬む」ではないが、制約のなかで生みだされたポップ・ミュージックこそしばしば時代に残る傑作となるのだ。今後の《Tanukineiri》の動向に注目したい。彼らは周囲をあざむく狸寝入りから今やっと目覚めたばかりなのだろうから。



(森豊和)



【編集部注】『TANUKINEIRI  DRINK  SAMPLER』は《Tanukineiri》のサイトでダウンロードできます。


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