【合評】TRAVIS『Where You Stand』(Red Telephone Box / Hostess)

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 何にせよ、人間には心の拠り所が必要で、帰るべき場所があるというのは素晴らしいこと。僕にとって、疲弊したら戻りたくなるのはトラヴィスみたいなバンドの音楽だ。そして、彼らの新作が「これまでのアルバムのなかで、一番愛すべき作品!」と断言できるほど傑作だったのは、今年一番の嬉しいサプライズだった。トラヴィスといえば陽のヴァイヴを放つミドル・バラッドのイメージも強いけれど、じつはそんな雰囲気を全面に打ち出した作品は5作目の『The Boy With No Name』くらいで、その前後のアルバム『12 Memories』『Ode To J.Smith』はヘヴィーで内省的なサウンドがメインになっていたし、初期の作品にも、ご存知のとおり闇雲に明るい楽曲はほとんど収録されていない。日本のCMでもよく流れていた「Walking In The Sun」(この曲はベスト・アルバム『Singles』に新曲として収録されていた)みたいな曲は稀だ。だけど、僕は彼らの音楽を聴いて生きる希望を見出すくらいに、トラヴィスを心の拠り所にしている。


『Where You Stand』は、曲の後半で一気に勢いをつける1曲目「Mother」から、フランが歌い上げるコーラスでリスナーを笑い涙の表情にさせる名曲「Moving」に雪崩れ込む瞬間に、傑作だと確信できる。「Moving」の《夜の闇がいますぐやってくるというのなら 僕は君と一緒にその闇のなかを歩きぬくよ》という最後のラインも、彼らがいままで築きあげてきたサウンドがあるからこそ、説得力がある。そのほかにも「A Different Room」のように『The Boy With No Name』路線の爽やかな歌ものもあれば、「Warning Sign」のように『Ode To J.Smith』路線のヘヴィーな曲もあって、彼らはそのどちらを選び取るわけでもないのに、アルバムとしての統一感(落ち着き、という表現でも良いかもしれない)は見事の一言に尽きる。それと、「Moving」にしてもタイトル曲の「Where You Stand」にしても、彼らはまったく新しい場所にバンドの立ち位置を見出したような印象がある。僕も、私生活で自分の立ち位置を見失いかけていたときに、この作品に出会って救われた。こういうことを言うと、音楽を重く捉えすぎていると思われるかもしれないけど、ほんとうにそのくらいのパワーがある作品なのだ。


 UKロック好きであれば誰しもが一度は通ったマスターピース『The Man Who』『The Invisible Band』のように、名曲シングルが連打されるようなアルバムではないし、『The Boy With No Name』でのある意味振り切れた彼らの清々しい姿を見られるわけでもないけれど、『Where You Stand』を聴けば、いまの(もしかしたら昔とは変わってしまった)自分を受け入れて堂々と、ユーモラスに、ステージのうえで演奏する彼らの姿が思い浮かぶ。そう、僕は彼らの"真摯にふざけている"スタンスも大好きなのだ。



(長畑宏明)

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 弾ける様な若さが音に溢れている。いや、正確にはそうじゃない。現在のフラン・ヒーリィーは父親の視点で青春のときめきを歌い、やがて息子に訪れる日々を暖かく見守っているのかもしれない。動き出すこと(「Moving」)を壮大に歌い、大切なことを覚えておくよう伝え(「Reminder」)、君のそばにいるよと呼びかける(「Where You Stand」)。かつて「真実が欲しい(「Give Me Some Truth」)」と歌ったジョン・レノンのように、ひたすら誠実に人と向き合い続けてきた彼らは、今しっかり大地に根を下ろして、自分とその家族を大切にすることについて歌っている。


 フランは語る。僕は父親のいない家庭で育った。自分の子どもにはしっかりそばにいてやりたいから、子育てが一段落してからアルバム制作に取りかかったんだ。ソロ作『Wreckorder』をはさみ、曲作りの段階からメンバー全員で作り上げたという本作はまさに王道トラヴィス節の連発だ。泣きのメロディーが光る「New Shoes」の歌詞には、キャロル・キングがザ・ドリフターズに提供した曲「Up On The Roof」が登場する。メランコリックな打ち込み主体の「Boxes」同様、子ども達の夢の世界が歌われている。


「スコットランドを中心とするケルト系民族の郷愁を誘うメロディーは、遺伝子レベルで日本人の肌に合う」。伊藤英嗣はかねてからそう主張している。今流行りのエビデンスとやらはないが、私も同じことを考えていたので、知ったときはびっくりした。そしてもしフランが日本人だったら、きっと私は友達になっていたはずだ。今作のレコーディングをおこなったノルウェーの小島で、彼は王族の幽霊に会ったという。いい幽霊だよ! かつて岡村詩野の取材に対してフランはこう語っている。「ケルト文化は進んでいたんだ。一説では古代エジプト人も利用したというくらい。イングランドに侵略され失われてしまったけどね。スコットランド特有の気候と地形が文化を育んできた。長雨が続くと集落の住民が一ヶ所に集まって、そこでアートが発達したのかもしれない」(岡村詩野編『ガイド・トゥ・グラスゴー・ミュージック』より要約)。先日の来日公演(2013年6月)でもアンコールで演奏された「Why Does It Always Rain On Me ?」はまさにそのテーマだ。国民性に寄りそい素朴で普遍的なメロディー。しかしフランのオカルト的な語りを知ってしまうと、匿名性を求める態度が逆に個性を浮き彫りにしているようにも思えてくるから面白い。


 蛇足であるが、この曲収録のアルバム『The Man Who』のタイトルは、オリバー・サックス著『妻を帽子とまちがえた男』からとられている。物体を認知することはできるが、人の表情を区別できない相貌失認の人の話だ。この高次脳機能障害のため、彼は日常生活で様々なトラブルにあう。彼は音楽教師であり、歌うことで自分をコントロールし生活に秩序をもたらす。この本では神経科医(精神科医ではない)オリバー・サックスが診てきた、様々な人々が描かれている。脳の器質疾患であるから完治することは稀だが、その代わり自身の状況に新たな代替手段(オルタナティヴ)で対応している。足が悪いから杖を使うのと同じ、精神疾患であっても基本はそう、どんな病気であってもまず彼らは普通の庶民なのだ。『The Man Who』とは無名性であり、それぞれに個性があり困難に立ち向かい、なんとか乗り越えていくことの象徴かもしれない。実に日本的。スコットランドと日本は地続きなのかもしれない。フラン、僕達もどうにかやっていくよ。またこっちに遊びに来てくれないかな?



(森豊和)

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